異能虫 01
後藤大輔は顔色一つ変えず、こう答えた
「わかった」
ーーたった、それだけだった。
ーーでも、それだけだった。
これで楽になれる。あの生きてても馬の糞より、くだらない人生からの離脱。
そう思うと、心底楽になれた気がした。
扉の方を見ると前に誰かが立っている。きっと、楽に殺してくれる装置まで案内してくれるんだろう。
だが、そんな淡い希望は一瞬にして淡く消えてしまったーー何故なら、憤怒しているアリスだったからだ。
「殺って欲しいだとさ。俺は殺る気のない人間を殺す趣味はないから、お前の好きにしろ」
「はい、そうさせて頂きます」
「ちょっ!! 自分はそんなん聞いてないですよ!?」
怒りだけで人を殺せるくらいの殺気をこっちに向けると、自分の方に一歩ずつ、一歩ずつ向かって来る。
体中から溢れ出る嫌な汗のせいか、あまりの殺気に体の神経が麻痺しているのかーー今の自分にはわからない。
ただ一つ分かっていることは、殺られるということだった。
そして、案の定ーー何の抵抗もできない自分は馬乗りをされ、一方的な暴力を喰らった。
何度も何度も殴られ続けた。加減のないパンチのせいで、もはや自分の顔の形さえも変わっているかもしれないと思っていた。
ーーけれど、自分が気にしているのはそこではない。
これで、いつになったら死ねるのかや、自分の死骸がどう処理されるのかではなく、もっと目に見えてわかることで……。
「どうして、泣いているんですか?」
自分をゴミと呼び、拳銃で撃ち殺したアリスが大粒の涙を流していて、それが自分の頬を伝っていたからだ。
その涙のせいで、傷口に塩を塗られたような痛さがあったが、それよりも、どうしてアリスが泣いているのか気になって仕方なかった。
その自分の疑問点を再び自分が聞くことなく、アリスの方から話してくれた。
「私には、生きたいと願った人間を助けることができなかった。それも、私に力が無かったからだ。だから、お前みたいな奴を見てると虫唾が走る。 それも、自分から死を望むなんて……私は絶対に許さない! 例え、どんなことがあってもだ!!」
彼女は泣きながら、自分にそう訴えてきた。きっと、彼女の発言に嘘偽りはないーー彼女の顔を見れば一目瞭然だった。
ーーでも、ここで一つの疑問点が生じた。
「なら、どうして……自分を射殺したんですか?」
「…………」
先ほどまで、聖母のように自分に向けていた優しさが、再び閻魔のごとき殺意に変わり、右腕から渾身の一撃を繰り出そうとしていた。
ーーこれ、喰らったら本当に死ねる気がする。
そう思ったが、その手を後藤大輔が止めて、一言。
「お前、それぐらいにしないか。次一発殴ったら本当に死ぬぞ」
「はい、そうしときます。すみません、私としたことが感情的になってしまって」
ーー助かった。そして、自分はまだ生きたいのだと体の震えから理解できた。
しかし、これで終わらないのが、後藤大輔の習性なのか、余分な一言を付け足してきた。
「まぁ、気にすんな。あれだ、どっかの企画もんみたいにいきなり男に襲いかかって、あれするみたいに見えて、俺としては一挙両得だったから、気にすんな。良い顔してたぞ、お前」
その後、激しい衝撃音が部屋中に響き、自分の目は真っ赤な海に染まっていた。
「お前、本当に殺っちまったぞ、今のは……さすが、変態家庭教師だな」
自分は二度目の絶命を体験した。もう……何がなんだか、わからない。
上條功一 去年20歳 死亡理由 後藤大輔の失言による二次的被害。
完?!




