作家の卵
カタカタカタ・・・・
室内にリズミカルに響くキーボードの音。
それは、ここの住人・澪が、小説を作っている音。
澪は、小説をかくのが好きだ。
昔から話を創造するのが楽しくて仕方がなかった。
小さいころは、まだ舌足らずの言葉で親に聞かせては感想をもらったりしていた。
澪が頭で作った話を、「小説」というものだと知ったのは小学校低学年。
それを、書いて他人に見せることを知ったのは、高学年の頃。
しかし、澪はちょっと特殊だった。
最初に作文用紙に書いてみたが、すぐに止めてしまった。
理由は単純、字が汚いから。(他人から見れば相当綺麗だったが。)
あとは、小説が長いと用紙がかさばって鬱陶しいから。
そんなこんなでなかなか自分で作った小説を他人に読ませる、ということがなかった澪だが、中学にあがって、ある変化が訪れた。
パソコン上で小説を打つ。
これを友達から学んだ澪は、すぐその虜になった。
キーボードを打つ感覚は楽しく、そして当たり前だが字は綺麗、そしてかさばらない。
パーフェクト!!
というわけで、毎夜寝る前にカタカタとキーボードを鳴らすのが澪の日課となった。
カタカタ…ッタン!
キーボード上で指が踊るように跳ね、本人はとても楽しそうな顔
それがたまに真剣味を帯びた表情になるのだから見てて飽きない…
「っていうのはどう??」
「却下」
「酷いね!?どこがダメなの!?」
「自分の伝記なんて書けるか」
淡々とした澪に、反論する美紀。
「澪ならいける!」
「無理」
「そんなあ~(泣)」
そうして泣き真似を始める美紀を視界の隅におさめたまま、澪はキーボードを叩き出す。
「あれ、いいネタあったの?」
途端に泣き真似をやめた美紀が覗きこんでくる
「全然。でもちょっと思い付いた」
そんな美紀に呆れつつさりげなく画面を庇う
「何々?見せてよー?」
「…嫌~」
「気になる!」
「気にしときなさい」
「くっ…」
ひどいー、と再び泣き真似を始める美紀を今度は完全に視界の外へ追いやって、続きを書き出す。
カタカタカタ…
いつの間にか、泣き真似をやめた美紀は、そんな澪を優しい眼差しで見つめる 時々、楽しそうに目を細めながら。
そんな美紀に気づいていないのか、気づいているのか、澪は構わずキーボードを叩く。
カタカタカタ…
カタカタカタ…
夜はまだまだ、これから。
少女は今日も、物語を紡ぎ出す。
澪主人公ー!
今回の話はなんか他の以上に書いてて楽しかったです(笑)