1話 「狼くん。」
プロローグです。
ある人は、人生を、こう形容した。
「人生とは、一人一人違うドラマであり、その最大の山場とは、【恋愛】(それ)である」―――――と。
ある人は、その【恋愛】なるものに溺れ、「キス」の味を「初恋の味」と形容した。
ある人は、「初恋の味」を「身体」で受け止めた。
ある人は、「身体」で「愛」に溺れた。
ある人は、「愛」を「哀」と書き換えた。
それは、苦しく・切なく・悲しく、しかし、恋に落ちたものの大体は「恋をしてよかった。」、
と涙を流すのだった。
馬鹿らしい。
丁度20分前から単行本サイズの本を黙々と読み続けている女――――――――――、千季 架是(せんき かぜ)というのは私で、恋愛未経験者にして、「恋」と「愛」を世界一嫌う、極普通の高校生だ。
先ほどの「馬鹿らしい」という発言は、この本に対してだ。この本―――――というのは、ただ今読破中の恋愛小説であり、表紙には女子生徒と男子生徒が笑っている。嗚呼、なんて微笑ましくて――――――――――なんて、胸糞悪い、いや、気分の悪い絵なんだろう。
微笑む?阿呆臭い。よく考えてみるんだ若者よ。心中など分かりはしないのだよ。本当は「嫌い」かもしれないんだよ。わかるかな。
かくいう私も、恋愛未経験者にして、恋哀経験者の一人であった。
それはあまりにも辛くて―――――白紙にしてしまいたい思い出NO.1に堂々と輝き続けているのだった。
ねえ、狼くん。
覚えているかな?
架是だよ。
ほら、返事しなよ。
白昼堂々、女子と手を繋いでいた、狼くん。
こちらには、見向きもしないで。
なのに。
こんにちは、狼くん。
覚えてるかな?
私は、しっかりと覚えているよ。
ドロドロの思い出とともに、ね。