5.違和
そうして修業を続ける日々が過ぎた。
その頃には兄との接点はほとんどなく、月に1~2度程、遠くに垣間見る程度になった。俺の生活はほとんど神殿で営まれているし、兄は兄で精力的に国内外での活動を続けているようなので。
そんなある日、しばらく兄を見ない日が続いたと思った矢先に偶然兄と行き会った。それも珍しく、図書部屋で。
「‥‥兄上?」
「フエゴか。久しいな」
兄は、他人に対するときには如何にもな王子を演ずることが多い。血縁であり敵ではない俺や両親に対しては、おそらくは素なのだろう、いっそ素っ気ないほど飾り気のない態度が現れる。もちろん周りに俺たち以外がいなければ、ということだが。
「どうされたのですこんなところで。珍しい。
‥‥?」
俺たち双子は対等ではない。それは昔からそうだったし、2年前の成人の儀のときに、俺が継承権を放棄したことで立場はより明確に分かれた。俺はたとえそれが同じときに産声を上げた兄弟であってもその前に跪くことに躊躇いはないし、今となっては、その目を見ることすら畏れ多いとも思う。
だが、その時は、久し振りに垣間見た兄に何か違和感を覚えて、思わず正面からまじまじと眺めてしまった。
「‥‥兄上、何か‥‥」
「あぁ、お前には分かるのか」
魔の素養のない兄に、何らかの魔の力が絡んでいた。
だが、それは兄を害するものではなく、ただ絡んでいるだけだった。
端的に言うと、そういう現象だった。俺はこれまでそのようなものを見たことはない。
「これが何か分かるか?」
「‥‥何かが絡んでいるのは分かりますが」
俺の知る術の中にそのようなものはない。つまりそれは神殿が知らないということで、すなわち外法だということだ。
「聞いたこともない術ですね。‥‥危険は?」
「まぁ、ないだろう」
兄は時々豪胆だった。というより適当だった。俺には感じられるからそこに悪意が介在してないことくらいは分かるが、兄はまったくその存在に触れられないはずなのに簡単に言う。
「それで、一体何をくっつけていらしたのですか?」
悪い物ではないが、理解ができないのは気持ちが悪いのだ。
食いつく俺に、兄は人の悪い笑いで答えた。