10.双子
初めはただ、兄の邪魔になることだけは避けたいと、それだけだった。それは保身だったのかもしれない。兄は己の悲願の邪魔になるのなら血を分けた兄弟であっても破滅に追い込んだだろうから。それを忌避する程度には、無欲な俺であっても生きたかったのだろう。単純に死にたくなかった、というだけにせよ。
けれど、あまりに必死に足掻くあの人を見るにつけ、助けになれるのならばなりたいのだと、そういう衝動が生まれた。
そして、求めたものを得た兄を見て、心底から安堵した。
「‥‥あのかたは、一の国の姫だから」
今兄は、何故俺にそれを知られていたのか分からないと言いたげに、そしてどうして俺がそれを詰らないのか理解できないかのように、困惑して言を綴っている。
「そう聞きました」
「俺は、何故だろうな。彼女が欲しかった。どうしてか、彼女が一の国の至宝と知っていて、だから俺が再び一の国を興すことができれば、彼女は顕現するのだと」
そう、物心ついた時には焦がれていたのだと、兄は語った。
そして心底不思議なものを見る目で俺を見る。
「お前はどうして俺を知る?情炎の。――フエゴ」
きっとあのまま突き進んでいたとしたら、兄が俺に疑問を覚えることはなかったのだろう。
「さて。いえ、でも、寵姫様を得た兄上を目にしなければ、私も気付くことはありませんでした」
ただ、大陸統一が手段であることだけは、比較的初めから知っていた。
「兄上貴方は、ご自分がどのような眼をしていたのか知らないのです」
俺は鏡ではないから、直に目にして知っていた。あまりに遠くを見つめる姿。どうかしてしまうほどに焦がれて足掻いていた姿を、俺は見ていたのだから。
「‥‥そのようなものか」
恐らく俺は本当の意味で兄を理解することなどできないし、兄もまた俺という存在に納得することなどありえない。けれどそれは間違いではない。
「えぇ。私は貴方の望みが叶って嬉しいと、心から思いますよ、アデランテ」
俺と兄とは双子だが、共感を覚えることなどまずない。兄には悲願があり、俺にはない。野心も願望も、そういうものなのだろうな、と想像することしかできはしない。
それでも俺は、兄が幸せであるというのなら、それでいい。
「――お前の望みは」
「魔術師にそんなものはありはしませんよ」
ただ、望みあるひとの望みを叶える手助けができるのなら、それで幸せだ。




