8.返礼
祝福とは、平たい話呪詛返しである。
術の構成上、返すものは呪詛に限らないのだが、まずもって大別することからそれらの贈り物に込められているものは呪詛ばかりで、だからほとんど呪詛返しで間違いではない。
「要するに鏡面だということですか」
「‥‥そうなのでしょうね」
正直なところ、この国では魔を扱うすべはそれほど盛んではなく、自惚れではなく術を使うだけなら俺が一番魔を込められる。魔法使いであるところの彼女には比べるべくもないが、何が言いたいかといえば、兄に敵対する連中の抱える術士程度の腕では俺の術に対抗するには役者不足なのである。
「さて、このようなものでしょうか」
この程度の呪詛であれば、正直に言えば陣だけで返せるのだろうが、兄と義姉に万が一にでも危害が加えられてはならないから、略式ではなく本式で術を行使した。特に偏向はしていないから、込めただけの呪詛が正確に返ったはずだ。明日の朝議で何人が欠席するものか、見ものである。俺は参加しないが。
そう、この祝福の術の味噌は、行使した人間ではなくその意思を持った人間に正確に返すことができる点だ。大概が貴族なんて連中は自分の手を汚すことがない。魔術を行使した人間に返したところで意味はない。精々子飼いを失うくらいで。あるいは送り主から辿ったところで、謀った人間が素直に自分の名を連ねるとも考え難い。
その代り、この術によって返された呪詛に証拠能力はない。そもそも返した時点で贈り物には残らないから、だからこれは正確に報復の意味しか持たない術なのだ。そんなものを連綿と受け継いでいる神殿という存在が、下手をしたら王侯貴族などより余程胡散臭く思える。
「‥‥へぇ、本当にきれいに返るものですね」
「えぇ。伊達に歴史があるわけではありませんから」
「それで‥‥流石に物自体はいいものですね。使わせていただきましょう」
一瞥しただけで術の効果自体からは興味を失ったようで、あっさりと彼女は物色に入った。それは名目上は彼女に贈られたものであるし、実質彼女の主が使うものであるから構わないのではあるが。
「‥‥意外と現金だな」
思わず低く呟く。他意はなく素直な感想なのだが、彼女は少しばかりばつが悪そうに振り返った。
「すみません。根が貧乏性なもので」
「いや別に。無駄にするほうが阿呆らしいものな」
そもそも悪意が込められていたものに対して、気分が悪くないのでなければよいのではなかろうか。




