6.定義
「それにしても、あんたがこんなことに手を貸すなんてね」
話が決まれば動きは早かった。俺と女医は早々に義姉の部屋を追い出され、彼女は“義姉”と連れ立って外出した。行った先が俺が言った草原なのかは知らないが、実際俺も行ってみたことがあるわけでもないし、がっかりされても微妙だからどこでも構わない。
「それほど不自然でしょうか?」
「あー。不自然っていうか。うーむ」
俺と女医の姿は城内の中庭にある。
だが、彼女の魔法を見習って、意味のある会話文として周りに漏れないように陣を組んでいる。陣はテーブルクロスに組んであるから、両手を同時にそこから離すことができないが、このくらいならばどうということはないだろう。ここを辞する時に忘れず回収しなければならないが。
他人とは、隠されているものは暴きたくなるものだ。であれば隠していることが知られないよう、あくまでも表面上は開示しておくのが賢いのだと、彼女の魔法から学んだ。
「欲のないあんたがよくもまぁ自ら動くようになったもんだな、と思っただけよ」
欲のない。俺はそう評されることが多い。若き国王と血を分けた双子でありながら、自ら継承権を放棄して退いたことからそう見られているのだろう。だが、女医はまたそれとは別の観点から俺を無欲と見なす。
「私は何も変わりませんよ」
俺は変わらず兄のために生きるだけだ。
神官も魔術師も、おそらく魔法使いも、およそ魔を操る人間には欲がない。己の欲するところが分からない。自分の感情が分からないし、望むものなど見えない。欲がないことが魔を操る条件なのか、魔を繰る内に欲が失せるのか、どちらであるのか分からないが、もしかしたらどちらも正しいのかもしれないと女医は言った。
だからこそ、俺達は、大切な幸せになってほしいひとのためにしか生きられない。そういう風にしか己の生を定義できない。そういうひとが仮に見つからなければ、多分、生きるのすらとても虚しいだろう。そういうひとが存在する、俺や彼女はだからおそらくはとても幸運なのだろう。
だから俺は、わが姫の為と二言目には口にする、彼女の気持ちがよく分かるし、深く共感を覚えるのだ。
「彼女は彼女の姫の為に。私は彼女のその忠義が、兄上の幸せにつながると信じるから、道を同じくするというだけです」
女医はそんな俺を、俺達を、特に憐れむわけでもなく、だから俺は本心を告げられる。
「彼女が私より強いのは確かですが、兄上の邪魔になるのなら、私は全力で敵に回りますよ」
もちろんそれは女医であっても変わらない。幼い日に、兄の野望を聞いた時に、俺は己をそのようなものと定義したのだから。




