3.宣言
父王に魔の素養はない。兄にもそれはない。双子とはいえ、兄と俺とは受け継いだ素養が違った。俺のそれは母の血だ、おそらくは。母は巫女だったことがあるくらい、かつては魔の力を誇っていた。父王に望まれ嫁いで俺たち兄弟を産んでからは往年程の力は振るえないが、巫女だったころは稀代の、という枕詞がついたそうだ。
そんな、欠片も素養のない父王であっても兄であっても、俺が空に刻んだということは分かったのだろう、兄はきょとんとし、父王は表情を険しくしたが、ただ一言、
「そうか」
とだけ言った。
これでいい。世界に誓って俺はもう金輪際王になる可能性はないし、父王はため息交じりでも了承したし、兄にもついでに告げることができた。俺は貴方の敵にはならないのだと。
「‥‥お前、何故」
「理由が必要ですか?」
我に返って詰め寄る兄に、父王に返したのと同じ応えを返し、話はそれだけです、と俺は頭を下げて執務室を出た。
「待て!」
自室へ戻ろうとしばらく歩いたところで、追いかけてきた兄に肩を掴まれ振り返らされた。野心に燃える兄は己を鍛えることを怠ったりはしないので、その力はかなり強い。肉体的にはほとんど同じ素養があるのだろうけれども、あぁしかし、魔の素養が俺にあり兄にないことを考えれば、肉体的にも違うのだろうか。ここ数年、まともに兄と力を比べたことなどないから分からない。素養なのか鍛え方なのか、どちらなのかは知らないが単純な対人戦ではすでに足元にも及ばない。
「何か?」
「何か、ではない!お前、何故、あんなことを」
あんなこと、と言われても。
「王には貴方が相応しいでしょう?」
素養はあるし、並々でない努力もしている。野望もあれば器量もある。この国は兄が継ぐことしか考えられない。であれば、火種にしかならない第二王位継承権など、一つの利もない。
「‥‥神官になるというのは」
唸るような低い声に、率直に答えた。
「せっかく母上から魔の力を継いだので、どうせなら役立てようかと」
俺には兄のようにやりたいことがない。だったら、ただ、己の持てる力を活かそうと思っただけだ。