3.鼎談②
「まず第一に、懐妊したのは私、ということにさせてください」
「無理あるんじゃない?」
女医はいつだって言葉遣いがなっていない。と言って別段、それを咎めるつもりはない。端的に言えばどうでもいいからだ。それに、公の場で女医が言葉を発することは多くはないが、その多くない場ではそれなりに改まった話し方くらいはできるようだし、特に問題はないだろう。
彼女は女医を見つめた。
「問題ありません」
「どのへんが?」
「‥‥結界魔法の応用、ですか?」
女医に問い詰めているつもりはなかろうが、ただでさえ無駄を削ぎ落とした言葉を遣うから、無意味に攻撃的に響く。それを和らげるためにも、俺は口を挟んだ。
正直俺がこの場にいる意味は見出せないままだが、折角呼ばれたのだし、この際はっきりさせられるところははっきりさせておこう。
彼女は俺の言葉に曖昧に頷いた。
「そう‥‥とも言えます」
「結界魔法って、えぇっと侍女姿の彼女に施されてるやつ?」
女医の食い付きが良すぎる。そういえば女医は、どこまで彼女たちの事情を知っているのだろう、それもはっきりさせたいことのひとつだ。
「というと、“義姉上”に被せた他人の意識を逸らすその結界で衆目を逸らす、以外にも考えがあるのですね?」
少なくとも女医に魔法や魔術のことがよく分からないことは確かだ。少々説明口調になるが、話を脱線させないためには仕方がない。この女医は、知りたいことの答えが得られないとどこまででも脱線する悪癖がある。これまで何度となく付き合わされている分それは回避したい。
「そうですね。
あの魔法を少しばかり拡張して、私とわが姫との姿を誤認させるくらいは簡単ですが、それだけだと不安です」
「簡単‥‥ですか‥‥」
俺にはどんな理論を使えばそんなことができるのか、皆目見当がつかないが。そのあたりが魔術師と魔法使いの差、なのだろう。
魔法使いは感覚で魔法を操る。魔術師は魔術を理論で組み上げる。はたから見た効果が変わらなくても、その二つははっきりと違うものだ。魔術を魔法使いが理解することはできないが、同じ効果の魔法を編むことはできるだろう。魔法を魔術師がそのまま使うことはできないが、理論的に組み立てられれば可能だ。当然後者のほうが時間はかかる。
「それにそれまで元気でいたのに急に産後の肥立ちが悪くて死ぬというのも、不自然ですし」
俺の葛藤も知らず、のほほんとそんなことを言う、彼女が時々憎くなる。




