1.助力
俺は彼女に協力すると決めた。
そうすることが兄の幸せでもあると信じたいと思うから。
実際に心の底から兄が満足しているとも思えないのだが、それでも、兄にとっての稀有な女性が兄の隣にいるためには、確かに彼女の存在は表にないほうがいい、とは俺も思う。
“義姉”の懐妊は、兄夫婦の婚姻からすぐのことだった。
もちろんそれは彼女ではない。彼女の主、表向きには侍女である“義姉”だ。
俺は今に至るまで、“義姉”と顔を合わせたことはない。実際には同じ空間にいることは多いのだが、彼女の結界がその身を護っているために。別に俺はそれで構わない、彼女に協力するのに何の問題もないし、俺は他人の美しさだとかには興味がない。ただ、“義姉”と共には必ず彼女がいるのだが、彼女がその主にだけ見せる蕩けんばかりの笑顔を垣間見るたび微妙な気分になる。
俺は懇意にしている医局の人間を彼女らに紹介した。
「魔法ってすごいのねー」
今、俺の目の前で茶などすすっている、薄ぼんやりとした女がそれだ。この女は昔から何故だか俺に懐き、守秘義務はどうしたのかと問い詰めたくなる勢いで、俺と兄との身体構造上の一致と差異だとか、術と子種との関連を代々の神官長の世襲率の低さから論じたりだとか、遺伝学の見地から某子爵家の込み入った血縁関係を紐解いたりだとか、とにかく己の知りうる全ての知識や見識を俺に伝えてくるのだ。彼女に男がなかったと思われるということもこの女が一方的に話してきたし、“義姉”が真っ新だったということも何故か勝手に教えられた。それを俺が知ってどうするというのか、兄だけが知っていればいい事だろうに。
「彼女が何かされたのですか?」
「そうなんだわー。診察してんのに自分が誰診てんのか分からんのだわ」
「‥‥あぁ」
紹介した、と言ったが、実際この国に来たばかりのころに彼女を診たことからも、この女がそもそもから彼女らの主治医となることは決まっていたともいえる。何せこの国で有数の女医であるから。
「‥‥ずいぶん徹底していますね」
「だってそれは、わが姫の美しさがどこからか漏れたら困るからですよ」
俺の隣には彼女が座っている。ただ茶を飲んでいるだけだがその姿に隙はない。噂の“義姉”はひとり上座のソファに座っている。“義姉”の淹れる茶は絶品だそうだが、俺は相伴に預かったことはなく、今回のこれも彼女が淹れたものである。実に美味だが、これ以上だということか。
「‥‥左様ですか」
「すいません嘘です。単に、無差別なだけです」
彼女にだったら指向性のある魔法くらい編めるようにも思うのだが。
「無差別だとしても、あれはすごいわー」
女医はひとり、しきりと感心している。えぇと何の話だったか。




