14.尋問
「儀のあれは、一体何のつもりだ」
ゆったりとしたリズムに乗りながら、単刀直入に斬り込む。口から出る言葉を飾るつもりはない。敵には回せないが、誤魔化しながら話ができる相手ではない、と、最大限の警戒心を持って相対する。
それに対する彼女の反応は、いつもと同じ笑顔の仮面ながら、どことなく楽しそうで面倒そうなものだった。
「世界に刻むわけにはいかなかったものですから」
何を、とは訊かなかった。彼女が指すものはあきらかだ。婚姻の儀の要ともいえる、世界への誓い。完全にあれはそこだけに狙いを絞っていた。
だが分からないのは、その意図。そんなはずはあるまいと思いながらも、しかし一曲は短いものだから、口早に尋問を続ける。
「‥‥国元に残した男でもあったのか」
「そんなものいないと、お分かりでしょう?」
あぁ、分かるさ。この言葉が見当外れなことくらい分かっている。だが何故分かっているのかなどと、告げるのはいかにもばつが悪い。何故なら俺は、彼女の身体検査の結果にそのまま目を通したのだから。本来なら目を逸らすべき項目にも知悉している。
「‥‥知っていたのか」
謝るべきだろう、な。婚姻相手でもない俺が、医局から全てを聞いて知っているということは。それを彼女が知っているのならば。兄の婚約者として相応しいかどうか調べるため、など言い訳に過ぎない。そもそもそれは俺の役割ではないのだから。だったらなぜ医局が素直に渡したのかは考えたくないが。俺の弱みとなるとでも思ったのだろうか。
そう思っていたのだが、彼女が考えていることは事実と違うようだ、と、次の台詞で気付いた。
「その出自でその地位で、その魔力があれば当然のことだと思いますけれど?」
当たり前だが、医局に我儘を通すことに魔力は関係ない。あれは単純な人間関係の問題でしかない。
‥‥あぁ、そういうことか。俺が、この国にしか、というよりは兄の行く末にしか興味がないこの俺が、隣国にまで監視の手を伸ばしている、と思っているわけか。誤解を告げるべきか否か一瞬悩み、黙殺することにした。それよりも今は得たい答えがある。
「‥‥では、何故」
「旦那様には私よりも幸せにしていただかなければならないかたがいらっしゃいますので」
確かに、世界に刻んだ夫婦関係は解消が効かないが。
だが、ではそれは、彼女が己の婚姻よりも優先するというかたとは、彼女が敬う相手とは、幸せを願う相手とは、誰だ?




