13.忌名
それから2~3人の騎士にも同じような懸念を告げたが、それ以上の大事にはしないことにした。訊いて回った彼らに対しても、ここだけの話だと強調してある。表向きは兄と義姉との成婚にケチをつけないため。その実は、あまり大々的に触れ回って藪蛇にならないために。そもそも仕掛けたのは俺が先なのだから、それがばれて困ったことになるのは避けたいのだ。
王城に戻った頃には、舞踏の会はすでに始まっていた。
とはいえ特に女性などは着替えなども考えられるため、開始に間に合わないからといって気まずいことは特にない。それぞれの来賓の読み上げられる名を聞きそびれるくらいだ。俺の名にしても読み上げられないと、それだけ。名を上げたいような貴族連中は必死だが、特に俺は継承権を放棄してからいつもこのようなものだから、気にならないしそれほど気にされない。
‥‥あぁ、一人だけ、文官がどのように読み上げるのか聞いてみたい名はあったか。
とはいえ彼女は主役だから、そうそう恥をかかせるようなまねはできないはずだが、
「‥‥神官長はごまかしていたな」
俺は聞き流していたが、騎士連中がえらく義姉に同情していた。意外と魔を扱う立場にいるからこその、逡巡だったのかもしれない。とは思うが、敢えて神官長の援護はしない。
この国の人間はそれほど魔に強くない。どちらかといえば武力に覚えのある人間のほうが多い。そんな国柄だからこそ、もしかしたら隣国の王は彼女を送り込んだのかもしれない、と思った。この国ならば、彼女の名を呼べる人間がいるかもしれないと期待して。流石に神官である俺の近くにはいないが、騎士団でも末端では、魔法や魔術、術など眉唾物だと思っている者すらいるそうだから。その連中なら確かに、忌み名もそれほど気にせず口にできるかもしれない。
少なくとも、俺には覚悟なしにはできない。
当然だが身元を尋ねられるようなことはなく、俺はひっそりと会場に紛れ込んだ。しばらくそのまま景色のように人々を眺める。俺は軽んじられているから、こちらから声をかけなければ話しかけられることもなく、それでいて王族の生まれはなかったことにはならないから、微妙に腫れもの扱いだ。気が楽でいいが。邪魔もされないことだし。
兄が再び義姉の手を取った。その一曲が終わるのを待って、俺は彼女に近付いた。
「義姉上、とお呼びしても、もう構いませんね?
ぜひ私と一曲お願いしたい」
張り付いた笑顔はお互い様だ。笑っていない目が、お互いの意図を探って絡み合った。
「えぇ、よろこんで」
口角を上げながら、彼女が息を吐いたのは気付かないふりをした。




