11.思惑
神官長が儀の終わりを告げて、それを合図に空気が弛緩した。
といっても立場ある人間ばかりなので、目に見えて気を緩めたりはしない。ただ張っていた緊張を解いただけだ、それは立場に見合う程度に。それほど大きなざわめきは生まれない。ひとこと二言、いい式だったとかそのような言葉が生まれては消えた。
同時に儀の終わりは俺に対しても変化をもたらした。
術を解く瞬間は、いつだって安堵する。今回もそれは同じで、俺ひとりの意志だけで維持していたものではないからこそ余計に、肩の力が抜けた。そしてようやくいつものやる気のない笑顔を思い出す。見回す視界に光学的でない色はもう存在しない。あれは美しいことは美しいが、情報量が多すぎて俺の身には負担だ。
そういえばすっかり忘れていたが、兄の敵に威圧を与えていたあれはどうだったのだろうか。
本当は、表情を見ようと思っていたのだった。余裕がなかったのですっかり忘れていたが、もともとは、色と威圧を与えられていることで何かがにじみ出ていれば、それから判断しようとしていたのだった。
「‥‥少し、よろしいですか」
「‥‥あ、殿下じゃないすか。どうしたんすか?」
相変わらず抜けた敬語を話す騎士だが。彼が一番話しやすい。俺は警備をしていた彼にさりげなく近付く。
「王妃さん綺麗っしたねー」
「そうですね。彼女のような妃を迎えられて、この国は幸運ですね」
そんな雑談より、と俺は声を低める。もともと高揚することが滅多にない俺は、声もそれに付随して低目ではあるのだが。
「‥‥式の間。不審な挙動はありませんでしたか」
あからさまに青くなったり倒れたり、というようなことはなかった、と思う。流石にあれば局地的にだろうがざわめくだろうし、さざめきが生まれればいくら術に集中していようが気付く。
「不審な。つっても‥‥」
「何でもいいのです。
もしくは、誰か体調を崩されたりだとか、そういったことはありませんでしたか」
こんなでも彼は有能な騎士の一人である。式の警備に立っていたのだから列席のかたがたに目を光らせていたはずだし、何かあれば必ず気付く。
「‥‥って、言われても‥‥」
「あの‥‥途中に、何か空気が変わった時があったでしょう?あれは何かを仕掛けられたのではないかと思うので」
俺の意図が分からなかったからだろう、ひたすら微妙な顔で黙っていた彼だったが、具体的な懸念を伝えるとはっとしたように俺を見た。




