4.謝罪
あまりにもあっけなく、簡単に投げ飛ばされて、俺はしばらく自失していたと思う。
「‥‥殿下?」
呆れたような義姉の顔が青空を背後に覗き込んできて、何故か俺に訪れたのは笑いの衝動だった。
「‥‥ははっ‥‥まさかここまでとは」
噴き出してしまったが、それだけで堪えて、俺は差し出されたその手を掴んで身体を起こした。綺麗に投げ飛ばされた割には身体に痛みなどはない。それも、きっと彼女との力量の差なのだろう。そのまま地べたに座った姿勢で、呆れたように腰に手をやる彼女を見上げる。
「‥‥この程度の腕で、私と手合せしたいなどとおっしゃったのです?」
あぁ、本当に。苦笑しか浮かばない。
「‥‥本気でお強いのですね」
「遊びだとでも?」
申し訳ないと思いつつも本音を漏らせば、拗ねたように義姉は言った。確かに彼女の腕前は、俺は足元にも及ばないくらいだとは分かったもののその具体的な強さは分からないにしても、遊びではありえない。おそらく己の全てを懸けて強さを求めるひとのそれだ。
「それにしても殿下、組手を了承するならば受け身くらいは取れていてくださいませんと」
確かに。彼女が驚くほど強かったからこそ俺は大した怪我も負わずに済んだが、そうでなければ骨の一本くらいいっていたかもしれない。
「ごめんなさい。侮っていました」
それに対しては心から謝罪する。義姉は見くびっていいようなひとではなかった。だが珍しく素直な俺の謝罪に、彼女はひくりとこめかみを抑えて、
「‥‥兄殿下と一緒にしないでいただきたい」
と言った。すると、彼女の兄、隣国の皇太子は、この国の規格外の国王とは違い、ごく普通の王族であるらしい。
「兄君はその程度でしたか、やはり」
普通、王族は剣を極めたりはしない。それよりは他人を動かす力のほうを磨くものだ。兄のように、騎士を両翼に侍らせて己の脚で駆け回るなど、普通の王族のすることではない、ましてやそれが国を受け継ぐものであるならなおさら。
それにしても、と嘆息する。
「貴女がそんなにお強いとは思いませんでした」
「左様ですか。
お望みなら鍛えて差し上げましょうか‥‥?」
若干半眼ながらも彼女が言う、それに俺は苦笑をし、それよりは興味津々に覗き込んでいる連中を鍛えて差し上げてください、と辞退した。




