3.手合
見事に城内の人々の心は荒れていた。
それをどこか他人事のように眺めながら、俺は忙しい日々を送っていた。その最中、何故義姉となる女性に手合せなど吹っかけたのか、それは俺にもよく分からない。
だが、現実に俺は彼女とともに騎士団の鍛錬場にいた。
周りには騎士たちが三々五々集まってきている。特にこういうことをする、と触れ回ったわけではないが、場所を借りる関係上ある程度は噂になることは覚悟していたし、それに結局騎士たちも、大陸一番の剣士の愛弟子の力量には興味があったのだろう。俺はそれらの視線を無視することにした。明らかに心配されている視線も多い。確かに俺は対して剣を扱えるわけではないからその心配も分からないでもない。けれどもそれも頭から無視をした。ただ、対峙する。
騎士服に身を包んだ彼女が真っ直ぐに俺を見据える。
俺も、いつもの神官服ではなく借り物の騎士服を身にまとっている。しかし、普段このような恰好などしないということは俺と彼女とで変わりないのに、何故姫である彼女に騎士服がしっくりきて、俺のそれはあくまでもかりもののようなのだろうか。多少情けない心持になった。
ふらりと兄が現れて、俺の正面にいる義姉に話しかけた。その目がちらりと俺を見て、その視線の中にも心配そうな色を見て、俺は意外に思った。まさかあの兄が、俺のことなどを心配するとは。
やはり、兄は変わったのだな、と思う。それをもたらしたのは目の前の彼女だろうか。
そう考えることは何故か不快で、けれども違うような気もして、俺は俺の思考が理解できなくて苛立つ。
剣をよくする、と噂される彼女の力量が知りたかった、ということはもちろんある。そしてまた、身体を動かすことがそれならば好きなのだろうから、気晴らしになるだろうかと思ったこともある。そしてまた、兄にあの魔を絡ませたということは魔を扱うのだろうに、それならば剣の力量はどれほどだろうか、と侮る気持ちもあった。それと、俺自身のこの苛立ちも、きっと手合せを吹っかけた理由の一つなのだ。
兄との話は終わったらしい。何故か兄は微妙にひきつった笑顔でこちらを見ている。そして義姉は、俺の正面に歩いてきて、きちんと礼をした。
「お願いします」
「お手柔らかに頼みます」
お互いに、感情の読めない笑顔で礼を交わす。
正直手合せの作法などは忘れたが、だがそもそもこの手合せに剣はないから、普通の作法通りでよいのかもよく分からないし、別段構わないだろう。
「では」
「――参ります!」
礼を交わし、直後突然義姉が裂帛の気合いを発し、そして世界がくるりと回った。




