1.独白
何故、双子になんて産まれてしまったのだろう、と、詮無きことを常に考えていた。
兄であり双子の片割れ、この国の王太子であるところのアデランテ・カミノは、常に餓えているような目をしていた。ぎらぎらと常に何かを追い求めている目。それは見るものを不安にさせた。少なくともここにひとり、不安を覚える人間がいる。
王太子であるからには、城の中、誰よりも物質的には恵まれて育てられる。それはもちろんその双子の片割れ、弟であるところのこの俺、フエゴ・カミノも同じ程度には恵まれていただろうけれど。けれど心は満たされない――なんてことは、考えたこともなかった。ただ、俺は、片割れであるというのに何を求めているのかまるで分からない兄に、怯えていた。求める何かが俺の生命でなければいい、なんてことすら真剣に考えた。それほど得体がしれなかった。
長じるにつれ、兄は与えられる以上の知識と与えられる機会などあるはずなかった経験を求めるようになった。同じだけの知識を与えられていた俺は、その頃すでに脱落を決めていた。知識など与えられる分だけでも充分であったし、経験など不要だと心底思っていた。王族に実戦は必要か?指揮はするべきだろうが、己で剣を繰る必要が俺には理解できない。
あれは10歳をいくつか越えた頃だったか、俺は兄に怯えながらもまだ時には口答えくらいはする元気があった。一度だけ兄がその望みを口にした。いや、あれは宣告だったのだろうか。くぎを刺されたのかもしれない。
「大陸をひとつにする」
したい、ではなく、する、と兄は言い切った。そしてそこに君臨するのだと。迷いないぎらぎらした目で。やはりあれは、そんな己の邪魔をするなら容赦しないという宣告だったのだろう。そういえばその直前、俺は兄の鍛錬に口を挟んでいたし、それが邪魔に感じられたせいだったかもしれない。
とにかくそのとき、俺は理解し納得した。
俺には兄を理解することはできない。その野望の邪魔をする気は毛頭ないが、ただ、双子という存在上、もしかしたら邪魔をしてしまうことになるのかもしれない。だがそれはできない。生命が惜しいことは勿論あるが、それだけではなく、それほど強い願望を抱いている兄が羨ましかった。だからその、手助けはできないにせよせめて邪魔だけはしたくない。そのときそれが俺の生きる意味になった。
何故双子になど産まれてしまったのだろう。双子でなく、たとえば年子でもいい、ただの弟であったなら、多分これほど苦しくはなく、素直に憧憬を抱くことができただろうに。
同じ顔なのにこれほど違う。それが苦しかった。
だけれども、一度だけ聞いた兄の望みを邪魔しないこと、それだけは己の心に刻み込んだ。空に刻みはしなかった、俺には多少の魔の素養はあるようだけれど、下手にそれを伸ばせば兄の脅威になりかねないから、その素養に関しては気付いたけれども誰にも告げなかったから、磨きかたも知らなかった。
あぁ、だが、兄の邪魔をしない、ためにできるだけのことをするのなら、要らないと思っていたこの力も、使いようによっては使えるのかもしれない。