2.変化
突然に兄に呼び出され、義姉を紹介され、婚儀を急ぐようにと告げられて、俺は頭を抱えそうになった。というか、実際頭を抱えたのだけれど傍若無人な兄はそれに気にも留めず、義姉となる女性のほうがかえって申し訳なさそうにしていたのが気にかかった。だがそんなことよりももっと申し訳なく思うことがあるのではないかと、八つ当たり気味に思う。一言だってそんなことは言えないが。
「‥‥急ぐようにも何も、そんな予定はありませんでしたが‥‥」
無駄と分かっても苦言を口にする。案の定兄はそれをまったく意に介さない。
「まぁ、そうだね。別にひと月ふた月かかっても構わないか。それなら先に主だった者たちに紹介の場を設けたほうがよいだろうか」
「よいだろうかも何も。それから、そもそもひと月ふた月で婚姻の儀の準備などできませんから」
あぁ、しかし兄がやる気になっているのだから、遅くとも一年以内にはこの件に決着はつくのだろうな、と、俺は重い息を吐いた。つまり俺も異常に忙しくなるということだ。王族の婚儀ともなれば、当然それは今俺が身を寄せている、大神殿の執り行いとなる。そうなれば、次期神官長でもあり兄との血のつながりもある俺に、かなりの負担がかかることは否めない。
「まぁ、何にせよ急ぐように伝えよ」
笑みを含んで兄が言う。不承不承それに頷きながら、俺はぬぐいようがない違和感を覚えていた。何か‥‥兄が違っているように思う。
それは負の変化ではない。だが何かが、明らかに出かける前と違っている。
「‥‥承りました。
兄上も、余計なことはせず少しでも義姉上のお心が安らぐように、お願いいたします」
機嫌よく喉を鳴らす兄と、困ったように微笑む義姉。兄よ、微妙に黒い笑いが漏れています、と口にすることはなく、俺はその場を辞した。
兄の前を辞し、俺は足早に地下の部屋に向かった。
これからしばらくは、城内の感情の流れに気を配ったほうがよかろう。
兄がこれほど性急に妃を迎えると告げたのは、おそらくはこの国の最後の膿を炙り出すためだろう。性急に、と浮かんだ言葉に己ながら首を傾げる。性急であるのに間違いはないが、兄の目に焦りはまるでなかった。
そして気付いた。俺が、兄に感じた変化とは、あの焼け付くような渇望が感じられなかったことだ。
ではあの妃こそが兄が恋焦がれ求め続けた何かであるのか?
俺はその考えにどこか腑に落ちないものを感じつつ、その小部屋に足を踏み入れた。




