16.極端
さて、俺はどうするべきなのかな。
真っ青な感情も恐ろしいが、燃えるような赤い感情もそれはそれで怖い。狂信的なまでに兄を想っているということで、何かしでかしかねないのだから。
今、俺の脳裏は、とりどりに彩られている。その中でもひどく対照的な、2つの点が気にかかって仕方がない。赤い点は、騎士団の宿舎にある。恐らくは兄に従軍したことのある騎士の一人だろうな、と予想はできるものの、果たしてそこまで兄に心酔している人間はと言われると、予想がつかない。青い点は、これは‥‥位置的には文官の居室の片隅のように思える。
俺はそこまで見て取って、
「停止」
術を凍結させた。途端に眼前にある景色が不穏当な色をなくし、現実感が襲い掛かる。眼を閉じてこめかみをもんだ。この術は地味だが効用は高く、そのせいか術者に対しての負担が大きい。しばらくして眼を開け、広げた地図を睨んだ。
さて、どうするか。
実際のところ、術は陣ではなく俺自身にかかっているから、別段この陣がなくても感情を知ることはできてしまう。それだけは避けてきたが、あの赤と青を思うに、その枷を外すべきときだろうか。目の前で術を使い姿を垣間見れば、誰があの感情を抱いているのか知ることは簡単だ。簡単だが、
だが、果たして兄に対してあれほどの感情を向ける人間が、俺に対して何を想うのか予想ができないのが困ったところだ。
兄に対して凍りそうなほどの悪意を持つ文官は、その双子の弟、継承権を放棄し膝をつく俺に対して何を想うのだろう。あるいは兄に対して焼け付くほどの忠誠を誓う騎士は、その双子の弟、共に戦うでもなく神官位に甘んじる俺に対して何を想うのだろう。仲間と思われるか、敵と思われるか、両極端しか思い浮かばない。
術の対象を俺に変えることはできるが、それこそ意味などない。俺は俺の人生になど興味はない。ただ兄の邪魔にならなければそれでいい。できるならその助けになりたいと思う。俺にはそれしかない。
「‥‥どちらにも、姿は現さないほうが無難、か‥‥」
日和見の結論に対して、己で己を嘲笑う。
結局俺には覚悟がないのだろう。兄の為に手を汚す覚悟、大陸全土の呪いに抵抗する覚悟が。他人の悪意にさらされることは慣れている、慣れていても快いものではない。それでもそれしか道がないのならばその前に我が身をさらそうが、現在のところそこまで切羽詰まる必要性も感じられないために。
結局今の俺にできることは、不穏な気配を感じて知っている、ということだけだ。
‥‥話が動かない‥‥
次からこそ、動きます。多分。動いて。
宵闇主人公の登場ですし。動いて。頼むから。




