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情炎の魔術師  作者:
Primerita
16/47

15.秘事

 どうせ城にやってきたのだからと、兄の執務室を辞した俺はその足でもう一つの陣を隠してある、地下へと向かった。


 地下であることに理由はない。ただ、他人が寄り付かないほうがよいだろうと思っただけだ。ひとが来ないところを吟味した結果、俺は終身刑の牢獄へ向かう通路にある小部屋に辿り着いた。この部屋の用途など知らないが、少なくとも、俺がここに出入りするようになって数年、ほかの誰かが入ってきたことはない。


 この場所は今日も陰鬱だ。


 扉を開いて俺はそんなことを思った。前回この部屋を出たときに設置した、入り口の陣を確認して、異常がないことを確認する。陣を無効化し――組んだのは俺だから俺の出入りはそもそも素通りだが――一歩を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。


 ちなみにこの、他人の出入りを知らせる陣は、魔術ではなく術の範疇に収まる。同じものは神殿にも設置されているし、王城の要所にもある、らしい。その警報を受けるのは基本的に神官長、王城のそれは騎士団長だと聞いたから、少なくとも現状では俺のあずかり知らないところである。いずれ受け継いだらもっと効率の良い組み方をしたいと考えている。


 俺は、室内に無造作に丸めてある、城内の見取り図(当然部外秘)を広げ、


参照(レフェリル)


キィワードを呟いた。このあたりは特に個別にはしていない。面倒だからだ。だが、本来は陣ごとに考えたほうがよいのだろうなとは思っている。面倒だからやらないが。


 脳裏に、俺の部屋にあった陣を起動したときと同じような、けれどもそれより詳細な色地図が浮かぶ。こちらは平面ではなく立体の位置関係も把握できるものだ。ここは地下だからここより上階しか色づいていない。この階にも人はいるが、それは重罪を犯した者ばかりで、兄が采配を振るうようになってからの犯罪者は主に数年の労働を課せられるものだからか、兄に対しての感情は無色なのだ。


 そう、これは、城内の人間の、兄に対する感情を覗く陣。このくらいの範囲であれば、充分個別に把握することができる。ぴたりと張り付いていればその保証の限りではないが、流石に城内で常に盛っているような人間はいない、と、思う。おそらく。


 見取り図は、各階ごとに4枚ある。地階の見取り図は手に入れられなかったが、前述のとおり問題はない。俺は、脳内に展開された色地図と見取り図とを比べながら、突出した寒色がないかどうかだけを探った。


 それ以上をする気はない。それでなくてもこんな魔術は禁忌であろうし、それ以上を望んだところで俺の身がもたない。今でさえ、脳内でちらちらと踊る色を見続けていると頭が痛くなるというのに。恐らくは、処理能力の限界なのだろうな、と思う。


 だが、これが決してほめられた所業でないと知りつつも、俺はやめる気はない。


 兄の助けになりたいと望んだときから、俺は、そのための手段を選ばないと決めたのだから。

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