14.地図
何か毒気を抜かれて、俺は結局、魔が満ちたことを兄に告げられなかった。
「それで、何用だ?」
何か用がなければ寄り付かない、わけではないのだが、すっかりそう思われてしまっているらしい。それで別に構わないが。
「‥‥西のほうが不穏です」
特にそれが気になったから来たのだと、そうとは言わなかったが、兄はそう捕らえたらしかった。あぁ、もしかして、こうして常に用事を取り繕うからそう思われているのだろうか。だとしたら悪いのは俺か?
「‥‥西?西か‥‥」
国内か国外なのか、と問われ、俺は先ほど脳裏に描かれた地図を思い出す。
「国土のぎりぎり、ですね。隣国と行き来はあるのでしょうが」
「不穏とは、どういうことだ?」
俺は兄に、俺が編んだ魔術について詳しく説明したことはない。見たものをそのまま伝えることもしたことはない。だが兄がそれに対して苦言を呈すことはなく、要望を口にすることもなかった。
「好悪が同程度ずつ存在するようです」
重ね合わせでは無色だった。が、時たまにちらつく色があった。往々にして、地域ごとの濃淡を目にすることが多いため、ひどく目立った。同程度なら結託することもなかろうから気にすることでもないのかもしれないが、俺は兄に告げることを選んだ。兄はどう判断するのだろうか。
「‥‥好悪、ね」
俺が目にするのはあくまでも感情である。
人間というのは感情だけで動く生き物ではないから、悪感情がつのっているからといってそれ即ち敵対する、というわけではない。損得を顧みて、寒色に彩られた地域だとて安定している箇所もある。
だが、それでも感情に蓋をし続けることも無理があるから、何かしら行動を起こすときにはある程度の目安にはなるだろう。俺ができるのはそれくらいだ。
「ひっくり返るのは簡単そう、だと思えたので」
特にどうすべきだ、という考えは俺にはない。それは俺の役割でない。
ただ俺は、俺が見たものを、兄に伝えることだけを考える。




