10.考察
明けて、翌日。
あれこれ考えながらも微睡んだが、微睡みだけで夜が明けてしまった。まぁ、睡眠不足には慣れている。俺は神官長の元へ向かった。
「おはようございます」
いつもの通り、薄く笑んで頭を下げる。
本来ならば、一介の神官に過ぎない俺であるから、神官長にはもっと礼を尽くさなければならないし、尽くせと言われれば尽くすつもりはあるのだが相手から断られているので、この程度の礼で済ませている。次期神官長であることはただ並び立つと言うだけのことだから、どうせ出自に気を使っているのだろう。生臭いことだ。
「あぁ、情炎の。‥‥何か、ありましたか?」
ころころとした神官長、称号は何と言ったか、神官長としか呼ばれていないので正直印象に残っていない。
それにしても、何かあったか、だと。表情を探っても隠しているようにも見えず、ただ不祥事を心配する色しか見られない。わずかに失望した。失望がわずかでしかないのは、そもそもあまり期待をしていなかったからである。
「えぇ‥‥いえ、特に何があったわけではありませんが」
せいぜい猜疑に駆られるといい。俺は薄い笑みはそのままに、いかにも何かがありそうに告げて、それだけで背を向けた。
神官長はかなり生臭い性格をしているが、だからといって縁故だけでその立場にいるわけではなく、現在神殿に所属している中ではかなり魔の素養の高いほうだろう。その彼が気付かなかったということは、昨夜のあれに気付いている神官はほかにないとみていいだろう。
ふむ、と俺は考えた。気付いたからには何とかすべきだろうが、さて、何をすべきだろうか。
魔が満ちることについては、何らの問題がないのは確かだ。世界に満ちる魔を編んで術を行使しているのは確かだが、現在、それをそのまま使うような術は知られていない。現在の魔法使いも魔術師も神官も、誰もが一旦己の中に魔を落とし込み、それを編むことで術を行使する。だから、世界の魔が増えたとて、即ち術の威力が上がることにはならないのだ。余程の大魔術を使わない限り、昨夜の変化に気付かなかったような鈍い連中が、昨夜の事実に気付くこともなかろうと思われる。であればすぐさま何かの対策を練らなければならないわけではない。
ただ、気になるのは封印が解けた――本当に俺が考えたように封印だったとしたらだが、あまりにも大がかりで考えたくはないのだが――としたら、それを編んだ人間・解いた人間の存在が気になる。そんな封印の存在も不穏だし、それを行使できる人間は明らかに危険だ。
だとしても現時点でできることは何もないな、と、息を吐き、俺は兄の元へ向かうことにした。




