表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
情炎の魔術師  作者:
プロローグ
1/47

プロローグ

 闇色のその人は、眼下に世界を見渡した。


「‥‥世界」


 見渡す限りは大陸で、けれどはるかな向こうに海を臨む。


 その人にとって世界とは大地のことで、海原を含むすべてではなかった。大地と、そこに属するすべてのものが世界だった。高く空までは世界だったが、海原の向こうは知らなかった。それで充分だった。


「わが姫が幸せになれない世界なら、いらない」


 だからその人は呪いをかけた。己の魔力の全てを懸けて、その存在の全てを懸けて、大陸全土に呪いを放った。それは己に呪いをかけることでもあった。


「わが姫がいない世界に私はいらない」


「わが姫の傍らには私が侍る」


「これ以上あのお方の御心を傷つけることのないよう」


「愚かな争いなどなくなればいい」


「殺は厭うべきものだとあの方はおっしゃった」


「わが姫を争いの種にするくらいなら、世界はわが姫を忘れればいい」


「私だけが覚えておくから」


「あの方の眠りは誰も妨げられない」


「私が御身とその名を守るから」


 呪詛のように続いた呪文は、一時途切れた。その人は魔力もほとんど底をついて、存在もほとんど薄くなったけれど、その意思だけは止まなかった。


「世界が、今よりあの方が望んだ姿になったなら」


「四公家が愚かな争いをやめるのなら」


「私はその時目覚める」


「その時はわが姫も幸せになれるから」


「再会を祈る」


 カミナンド。クルサンド。カンタンド。バイランド。


 その人はその身の残りを4つに分けて、それぞれの公領に向かって投げた。


 そして、空高くそびえる尖塔の頂上、見渡す限り青空しか見えないその場所は、まったくの空となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ