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ドロップキック☆

作者: するめ315

お久しぶりです。短編なので楽しんでくれるとうれしいく思います。

「なめんじゃねえええぇぇぇぇ。」


―――ドカッ

―――ガシャン、ガシャガシャン


きまった。奇麗に入ったぞ。必殺、ドロップキック。


「私にだって感情があるんだよ。ふざけろ、バーカ。」


―――バタン


そう、捨て台詞を残し家を飛び出した。


***


私、椎名桃子(しいなももこ)26歳は結婚して今日で1年になる。

夫は、椎名涼(しいなりょう)29歳、システム制作部第2課の係長……今年度春から、課長に昇進することが決まっている私の元上司である。


この男、とにかく無口である。

結婚して1年夫婦の会話は、私が投げ掛けた質問に「ああ。」「わかった。」「そうか。」ぐらいしか返してこない。ひどいときは「ん。」これのみだ。この男は会話をする気がないらしい。

これなら、上司と部下で会った時のほうが、よく話していたように思う。内容は仕事のことだが……。

まあ、日常生活はこれでもいい。なんとかやっていけるし、うるさいよりは静かなほうが落ち着く気もする。


ただ、夫婦の夜のコミュニケーションも無口とはいかがなものだろうか。

表情にも出にくい人なので、いつスイッチが入って襲われるか分かったものではない。

触れられているときも、次にどこに来るのかとか……緊張する。

それに、何より名前くらい呼んでくれてもいいと思う。

名前を呼ぶのも、声を出すもの私だけ……。時々聞こえる吐息と、触れ合う素肌で存在を確認している。

出るものは出るんだから、私で気持ち良くなっているとは思うが、自信はない。

さしずめ、私はダッチワイフだ。


これでよくプロポーズなんてできたものだ。

まあ、私はあれを、プロポーズと呼んでいいのかもわからないが……。


週末、食事中の会話はゼロといっていい、いつものデート後、お持ち帰りされ、朝起きたら左薬指に高そうな指輪、目の前に突き付けられる、記入が半分終わった婚姻届。

私は、夫が好きだったし、性格も知っていたし、うれしかったから記入したけど……結婚1年目、間違いだったかもしれないと思う日々。


しかし、今日は結婚1年目という記念日。普段なら記念日なんか気にもしないが、うれしいこともあったから、そのお祝いもかねて、パーっとやろうと決意を固めた。

そうと決まれば話は早い。夫が帰ってくるまでにごちそうを用意せねば。

ダイエット中ではあるが、今日は特別にケーキもつけちゃおう。

そんなことを考えながら、今日の夕飯は楽しい時間になると思いながら、いつもよりも二言、三言でいいから会話も増えることを願いながら準備していた。


***


―――カチャン……キィー、バタン


夜、いつもより少し早い時間に夫が帰宅した。いつものように玄関までお出迎えに行く。


「お帰りなさい、お仕事お疲れ様。今日は寒かったでしょう。」

「ん。」


「ん。」ってなんだよ。どれに対してだよ……全部に対してかよ……。

期待してなかったけど傷つく。いつもより早い帰宅に、結婚記念日を意識していてくれたんではないかと、思っていたからなおさらだ。


「今日は結婚記念日なんだよ。ごちそう用意しちゃった。」

「ああ。」

「あとね、うれしいニュースがあるの、あとで聞いてくれる。」

「ああ。」

「…………疲れてるの。」

「いや。」


会話が終わったと思ったのか、背中を向け寝室のほうに向かう夫。


なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、これって会話なの。私のアピールって何にも伝わらないの。私には言うことなんてないってこと。私には話す価値もないってこと。


そんな風に考えたら、今まで一人浮かれて準備していたのが馬鹿みたいに思えた。


身体が勝手に動いて、助走をつける。


「なめんじゃねえええぇぇぇぇ。」


―――ドカッ


前を歩く夫の背中にドロップキックを入れた。


―――ガシャン、ガシャガシャン


夫が倒れる。衝撃で棚からものが落ちる。

でも、そんなことにかまっていられない。


「何なわけ、私とは会話なんかしなくていいと思ってんの。それとも私のこと、感情のないダッチワイフだと思ってんの。だから、ベッドでも名前さえ呼んでくれないわけ!?私にだって感情があるんだよ。ふざけろ、バーカ。」


―――バタン


財布と携帯、コートを持って家を飛び出した。


***


家を飛び出して2時間が過ぎた。

持ってきた携帯が、休みなく着信と受信を告げる。

もちろん出る気はない。


「しゃべらないくせに、電話なんか意味ないじゃんか……。」


携帯を手にし、電源を落とす。


「落ち着いたら帰りますよーだ。」


家の近所にいると見つかってしまいそうで、電車に乗って海にきていた。


夫と初めてのデートで来た思い出の海だ。

初デートはドライブで、とっても天気のいい日だった。車内は無言で、はじめのうちは居心地が悪かったけど、カーステレオから聞こえる音楽、吹き抜ける風、彼の息遣い、そんなことを感じていたら自然と居心地の悪さはなくなった。

特に目的があったわけではないが、ただ海を眺めた。そんな思い出……。


今、一人で眺める海は、暗くて、飲み込まれそうで、とても寂しい。

急に夫が恋しくなって、家に帰ることにした。


***


―――キィ、バタン


玄関の扉を開け中に入る。

明かりはついているものの、人の気配はしない。どこかに行っているようだ。

靴を脱いで家の中へ。廊下には、夫に蹴りを入れたとき、棚から落ちたものがそのままになっている。

それらを棚に戻し、部屋の中へ。頑張って作ったごちそうには、一切手が付けられていない。それだけではない。なぜか、私のスペースにあるものが漁られてる……。


―――バタン、ガタ、ドタドタ


玄関の扉が開いたようだ。そして、ものすごい勢いでこっちに迫ってきている……。


―――バーン


「……いた。」


久々に、いつもの言葉以外を聞いたぞ。

そんなことを思っていたら、ものすごい勢いで肩をつかまれた。


「……ッイタ……。」


思わず振り払おうとしたが、より強くつかまれた。


「……どこに行っていた。」

「…………。」

「どこに行っていたと聞いている。」

「……海…………。」

「海だと……。携帯にも出ないで、どれだけ心配したと思ってる。お前の親や友達に電話して、行きそうなところを探して、家に帰ってるんじゃないかと思って、時々家に戻ってきたりしたんだぞ。それに一人で夜の海なんて、危ないじゃないか。」


なんで、一方的に攻められなくちゃいけないんだろう。確かに、心配かけた私がいけないけど……出て行った原因はそっちにあるのに……。


「……なんか言ったらどうなんだ。」

「…………ダッチワイフのことなんか心配しなくていいのに…………。」

「なっ」

「違うの。じゃあ、性欲も満たせる家事ロボット?私になんか言っても、通じないと思ってるんでしょ。」

「…………。」

「ほら、何にも言えない。図星なんでしょ?」


幸せな日になると思った日が崩壊していく、そう、感じていた。


「……違う。」

「何が違うの。」

「……違うんだ、桃子。」


視界が急にぼやけた。


「桃子、なんで泣いてるんだ。」


言いながら私の頬をなぜる。視界がぼやけるのは、どうやら泣いているからみたいだ。


「……名前知ってたんだ……。」

「……はぁ、かみさんの名前知らない奴がどこにいる。」

「だって呼ばないから、知らないか、忘れたんだと思ってた。」

「そんなわけないだろ。」

「それに、いっぱいしゃべってる。」

「……それについては、本当にごめんな。桃子の隣は居心地良くて、しゃべらなくても通じてる気がして……。俺、甘えてたんだ。でも、しゃべらなきゃ伝わらないよな。寂しい思いをさせてごめん。」

「わ、私こそ蹴ってごめんなさいいいぃぃぃ。」

「あれは、驚いたな。」


夫はそういって笑いながら、ダムが決壊したように泣く私を、抱きしめて慰めてくれた。


***


いつもよりずっと遅い夕食。いつもより口数の多い夫。思い描いていた、幸せの日だ。


「そういえば、嬉しいニュースってなんなんだ。」

「ん、あのね、……妊娠したの。」

「へ、にんしん……?」

「うん、生理が遅れてるからもしかしてって思って、今日病院に行って来たら今2か月半だって。ねぇ、嬉しいニュースでしょ。」

「…………。」

「……嬉しくないの?」

「……妊婦が、ドロップキックをきめたのか……。か、体は大丈夫か?腹は、赤ん坊は平気か?夜の海になんていって、体冷やしてないか?気分はどうだ、悪くなってないか?」

「心配してくれるの?」

「当たり前だ。妊婦のかみさんを心配しない馬鹿がどこにいる。」

「赤ちゃん、喜んでくれる。」

「……愚問だ。それに、孕ませたのは俺だしな。」

「もう。」


***


―――翌朝―――


夫に甘やかされ、私は朝寝坊。

そんな私の首には、夫から結婚記念日のプレゼントがついていましたとさ。

たぶん続かない。


***


~オマケ~


長かった一日も終わり、いよいよ就寝というところ、妻から質問が投げ掛けられる。


「ねぇ、なんでベットの中でも何にも言ってくれなかったの。」

「…………。」

「また無言。そんなことしてると蹴りいれて、また出てってやるんだから。」

「……しゃべり出すと止まらなくなりそうだったんだよ。」

「何が。」

「……はぁ、俺だって男だ。好きな女が感じてたらいろいろ言いたいこともある。でも、言ったら嫌われるかと思ったんだよ。」

「……そんなわけないじゃない。」

「そうだな、今日でよくわかった。その体でまた、蹴りいれられたら困るしな。本人からの許可も出たことだし、遠慮しないで言うことにするよ。」

「……うん。」

「手始めに、今夜からだな。」

「うん。……へ、え……私妊娠中……妊娠初期だし……。」

「ああ、だから、無理のないようにな、手加減する。一緒に気持ち良くなろうな。」


こうして、甘い夜は過ぎていく。


隣にはいろいろあって、疲れて眠ってしまった彼女。最たる原因は俺だが……。

そんな彼女の髪を撫で、ベッドを降りる。

部屋の隅においてあった鞄から箱を取り出す。本当は今夜渡す予定だったのだが、しょうがない。

包装をとき、箱の中からネックレスを取り出す。それを寝ている彼女の首につけ、ベッドに戻る。


彼女を抱きしめて言う。


「いろいろあるとは思うけど、これからも頼むよ奥さん。」



***END***

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編だと知っていましたが、もっと読みたかったなと思いました。 過去の内容をもう少し増やしたり、未来の様子を少しだけ載せられていたらもっと良い作品になると思います。 しかし私は物語を書いた…
[一言] なんか、この奥さんの心情わかるなあ。 夫婦といえども他人同士なんだからね、コミュニケーション必要です。 言葉大切ですよ!!エスパーじゃないんだから!!と言いたい。 たまにはとの短編更新してく…
[良い点] 新しい夫婦喧嘩がおもしろかったです! [一言] 無口な男性が素敵~なんてのはマヤカシだと思います。 しゃべりすぎもウットオシイですが(笑) 基本的な会話すらできない男性は、女性がテレパシ…
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