スズメとギルドと女神様?
「落ち着いたかい?えーと……スズメと小鳩?」
「えっ……」
それから私が落ち着いたのを見計らって女神様が声をかけてくれたんですが……私名乗りましたっけ?
その驚きが顔に出ていたようで女神様は種明かしをしてくれました。
「ウィンドウで情報確認ができるだろ?……もしかしてウィンドウに気付いてないのかい?」
「う、ウィンドウ?」
というとアレですか。ゲーム画面に表示される色々な情報が載ってるやつですか。
ゲームの世界だとは思いましたけど、こんな現実っぽくなっていたせいでウィンドウなんてものがあるとは思ってませんでしたよ。
「意識を集中して空中にウィンドウを思い浮かべれば見えるようになるよ」
「なるほど」
小さいため息とともに教えてくれた女神様の上にウィンドウを意識してみたら……見えました!
「クジャさん?であってますか?」
「ああ、よろしく。ついでにそこのがあたしのプティでカマルだよ。」
狼さんに乗った少女はクジャさんのプティだったみたいです。
カマルちゃんは狼さんから降りると銀色のウェーブがかった髪を揺らして私の側に来ました。
私の服の裾をひっぱりながら見上げてくる新緑色の瞳がキラキラしています。
「ねぇねぇ小鳥ちゃん」
「え、はい。あの、カマルちゃん?私の名前はスズメですよ?」
「うん、いいのいいの。小鳥ちゃんはさ、これから行く当てあるの?」
「それは……その、一応小さいホームを購入して引きこもろうかと思っているんです」
なんだか言っていて情けないですが、今の私に取れる安全策はこれくらいだと思うんです。
というか私の名前はどうでもいいんですか?ちょっとショックですよ……。
「そっか、じゃあさ~」
「とりあえずこんなとこからはさっさと立ち去るよ」
クジャさんはカマルちゃんの話を遮ると腰に巻いていたショールのようなものを私の肩にかけてくれました。
忘れてましたが、私の服の胸元は酷いことになってました……っ!恥ずかしいっ!
クジャさんはまだ気絶している小鳩を抱き上げて狼さんの上に乗せると私の手をとって最初に歩いていた通りのほうへと向かいました。
カマルちゃんも面白そうに笑いながらまた狼さんの上に乗ってついてきます。
小鳩が落ちないようにカマルちゃんが支えてくれているので安心です。
狼さんの上にもウィンドウを意識してみると、どうやらシャドウハウンドという種類のクジャさんの使役魔みたいです。
さっき見た情報によるとクジャさんは魔物使いのカンストプレイヤーでした。
魔物使いはその名のとおり魔物をテイムして自分の使役魔として戦わせる職業です。
私の召喚士と似た職業ですが、違いとしては召喚士は魔術を使って契約した召喚獣を呼び出しますが魔物使いは使役魔を常に連れ歩いています。
それだけだと召喚士の方が便利そうですが、召喚獣は普通のフィールドにはおらず契約をするためにある一定の手順を踏まなくてはいけないのに対し魔物使いはその辺の魔物をテイム出来るため戦力の現地調達が可能です。
また、召喚士は後方支援型の紙装甲ですが魔物使いは使役魔と一緒に前線で戦える近接攻撃職だったりします。
そう考えるとクジャさんみたいな綺麗な女性が前線で戦うなんて……格好いいかもしれません。うん。
クジャさんは背中の開いてる服を着ているのに緑がかった黒髪はまとめてアップにしているのでかなり扇情的です。
まぁ背中だけでなく胸元やスリットもかなりきわどいんですが。
黒の足元まであるチャイナドレス風の艶やかな衣装はたぶん魔物の皮素材っぽいので一応防具なんでしょうか。
職業によっては鎧などのあからさまな防具が着けられないんですよね。
ついでに腰にしてある太めのベルトには武器であろう鞭が下がっています。
なんていうか本当に女王様ですね。
と、つらつらと考えていたらクジャさんに手を引かれるままついてきてしまいましたが、ここどこでしょうか?
さっき気をつけようと決意を新たにしたばかりだったのに……。
いやクジャさんはいい人だと思うのでそんなに心配はしていないんですが。
辺りを見回すと、どうやらメインの大通りに程近い職人街みたいです。
職人街は鍛冶屋から家具屋まで色々な品物を扱ったお店が立ち並ぶ一角です。
何を話していいか分からずクジャさんに連れられるままに歩いていると、一軒のお店の前で立ち止まりました。
大きさは周りの店より一回り大きな三階建て。
壁から下がっている木製の看板に魔方陣のマークが入っているので魔法道具屋でしょうか。
窓や扉の一部にステンドグラスが使われており壁には蔦がはっていて雰囲気の出たいい感じのお店です。
「うふふ、素敵なお店でしょ~」
「ここはうちのギルドホームだよ。まぁ入りな」
……ギルドホーム?
「あの、ギルドホームってギルドのメンバー以外は入れないんじゃないですか?」
「ん?あぁ、ここは1階を店として開放してあるんだよ」
そう言うと軽いドアベルの音と一緒に店内に引き込まれました。
「いらっしゃいませ~ってクジャ姐さん!おかえりなさ~い」
「たっだいま~」
「今戻ったよ。何もなかったかい?」
「もちろん、我が[フラワーガーディアン]の防犯は完璧ですよ~」
クジャさん達が店番をしていた水色の髪の女性と話している横で私は店内をキョロキョロ。
内装はアンティークショップのようで所狭しと机や棚には色々なマジックアイテムが並んでいます。
高めの天井からは形の違うランプがいくつも下がっていて飴色の光と窓やドアのステンドグラスを通した色鮮やかな光が店内にきらめいて、なんだか懐かしい気持ちにさせてくれます。
「あ~クジャ姐さんってば、またお持ち帰りですか~」
店番の女性も私に気付いたようでのんびりした口調に似合わない素早さで私の側までくると、なぜか私の周りを回って観察するように見つめてきました。
「スズメちゃんか~可愛い名前だね~。うんうん、スズメちゃんは女の子だね!」
「は、はぁまぁそうですね?」
あれ?私って女以外にも見えたりしますか?
「リラ、スズメが驚いてる。落ち着きな」
クジャさんは後ろから私を抱き込むとリラさんの顔を手のひらで抑えるように掴みました。
えーと、リラさんを引き剥がしてくれたのは嬉しいんですが、クジャさんに抱え込まれると身長差的に顔に胸が当たって恥ずかしいのですが……。
それともこれは豊満な胸の自慢でしょうか?
「なっ、なんだこれっ!っていうかどこ……って、うわぁぁ!」
「……こ、小鳩!?大丈夫?」
どうやら狼さんの上で気絶してた小鳩が目を覚ましたようです。
でもカマルちゃんが狼さんから降りて支えがなくなったのもあって落ちちゃったんですね。
「スズメ様っ!……よかった、無事だったんですね!」
床に尻餅をついていた小鳩ですが、私に気付くと起き上がって抱きついてきました。
小鳩にも怪我をさせてしまったのに私の心配をしてくれるなんて本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「で、ここは何処で、あれは誰なんですか?」
小鳩は少しだけ顔を離して不審げに辺りを見回してからクジャさん達に気付いたみたいです。
なんだか不機嫌そうな顔でクジャさん達を見ているようですが何ででしょう?
「こ、小鳩?彼女達が私達を助けてくれたんですよ。小鳩からもお礼を言ってくださいね?」
「そうですか。それは大変お世話になりました。このお礼はいずれまた改めて。ではこれで失礼します」
小鳩はかなり棒読みなお礼を口にすると私の手を引いてドアから出ようとしました。
「ちょっ、小鳩?どうしたんですか?クジャさん達に失礼ですよ」
「ここは危険な匂いがします。特にあの魔女!」
え、魔女って……まさかクジャさんですか?
確かに魔女っぽい感じはありますが本人がいるのにそんなにハッキリ言うのはちょっと……。
そんな魔女呼ばわりされたクジャさんはいい笑顔でドアの前に立ち塞がると小鳩の首根っこを捕まえて持ち上げました。
すごい早業ですね。
でも目が笑ってなくて恐いので程ほどでお願いします。
「くそっ、この手を離せっ!」
「ふふふ、随分可愛い子猫だねぇ。それじゃあ期待に応えて魔女のお茶会に招待しようじゃないか。リラ、何か適当に頼むよ」
「きゃはは、カマルは赤い実のタルト食べた~い」
ということで(?)どうやらお茶をすることになったようです。
でもお店の中で飲食をするのはいいんでしょうか。
現在品物が置かれているテーブルの一角に椅子を持ってきてお茶してるんですが。
あ、リラさんが入れてくれた紅茶とカマルちゃん要望の赤い実のタルトはとっても美味しかったです。
前に読んだことのあるゲーム内トリップ小説では食べ物の味がしないという話もあったんで、ちょっと安心しました。
ついでに暖かい紅茶でほっと一息。
小鳩も少しは落ち着いたみたいですが、やっぱり威嚇するようにクジャさんを睨んでいます。
なんでそんなにクジャさんが気にいらないんですか?
「さて、単刀直入に言おうかね。スズメ、あんたうちのギルドにお入り」
「……え?」
「あんたは危なっかしいからねぇ、あたしが守ってあげるよ」
「なっ、必要ありません!スズメ様は私が守ります!」
クジャさんのいきなりの言葉には驚きましたが、小鳩のほうが驚いたようでテーブルの上に身を乗り出していました。
私はといえば台詞もですがその流し目に心臓がドキドキして言葉が出てきませんでした。同じ女性なのに心臓に悪い人です。
私がぼーとしている間に小鳩はクジャさんにあしらわれています。
「でもさっきは無様にやられてたみたいじゃないか。ねぇ?」
「……っ、それはっ……でも、あなたのような危険な人間をスズメ様の側に置くなんて……」
「おやおや、せっかく助けたってのに危険人物呼ばわりとはねぇ。私が何をしたってんだい?」
「ぐっ……」
確かにクジャさんは恩人であって特に何かされたわけではありません。
小鳩も何故かクジャさんを危険視しているようですが、それはわかっているようで強くは言えないようです。
「あの、……お誘いは嬉しいのですがどうして私を?」
「小鳥ちゃんはクジャ様のど真ん中ストライクなのよね~」
クジャさんの代わりにカマルちゃんが答えてくれましたが、ど真ん中ストライク?
どういう意味でしょう。
いや、とても気に入って頂けたという意味なのはわかるんですがどこら辺の要素がそうだったのかがわかりません。
「スズメ様っ!やはり危険で……ぶっ!」
「も~小鳩ちゃんってば、さっきからクジャ様の邪魔しないの~」
小鳩がさらに反対しようとするとカマルちゃんが遮るように小鳩を椅子から引きずり下ろして口を塞ぐようにしています。
プティのレベルは主人とほぼ同等なのでカマルちゃんのほうが小鳩よりも強いため、小鳩も抵抗していますが逃げられないようです。
しかし小さい子供が戯れている(?)姿は可愛いですね~。
「話を戻すけど、スズメ。あんたさっきホームを買う予定だって言ってたね」
「あ、はい、そのほうが安全だと思いまして」
「確かにホームは安全さ。だけどいつまでも引きこもってはいられないよ。食料の買出し、情報収集、外に行かないといけない理由はいくらでもある」
確かにクジャさんの言うとおりです。
食料はある程度は備蓄しておけますがそれも無限ではありませんし、外の情報収集はこまめにしなければもし帰れるとなったときに取り残されかねません。
「こうやって知り合ったのも何かの縁なんだ。ちょうどうちのギルドは殆ど女ばっかだし安心だよ」
「そうなんですか?」
ゲーム人口が男女比が7:3と男性のほうが多かったのでギルドも大体過半数が男性のとこが多いと思っていました。
「まぁ男も3人くらいはいるけど、先に言っておけば顔を合わせなくてもすむだろう。まぁ今は別の都市に行ってていないしね」
「……!」
(クジャさんはさっきのことで私が男性に恐怖心を持っていることがわかっているんですね……)
「……だからこのギルドに誘って下さったんですか?」
「それもあるよ。でも一番は警戒心は持ってるみたいなのに流されやすいあんたが気にかかるから、かねぇ」
「うぅ……確かに」
クジャさんから強烈な一撃を頂いてしまいました……。
まぁ自分でもわかっていたことではありますが。
「……私は本当にお荷物になってしまうと思います。それでもいいんですか?」
「わかってるよ。それこそこっちで鍛えてあげるさ」
クジャさんが笑顔で両腕を広げます。
小鳩が首を横に振っていたのは見えていたんですが……ごめんなさい。
今まで親の庇護下で生きてきた私には断りきれない甘い誘惑なんです。
「私っ……わた……」
クジャさんの笑顔に安心したのかまた感情が高ぶって涙が出てきました。
安心して感情が高ぶるって変ですね。
でもクジャさんは苦笑いをすると私の頭を撫でてくれました。
その手の優しさにまたもや涙が。
「うぅっ……私、わた、し、……よろしくお願い、します……っ」
気付いたらクジャさんにしがみついて泣いてました。
さっきまでは自分以外にも大勢の人がいたことが怖かったけれど、今は他の人がいてくれて本当によかったと思います。
それから私が落ち着いたのを見計らってギルド登録をしてもらいました。
ギルド登録はそのギルドのマスターと入る人の2人の合意のもとなら何処でも可能です。
その時にわかったことですが、クジャさんがここのギルマスでした。
なのでマスターもしくはリラさんを真似してクジャ姐さんって呼ぼうとしたら反対されました。なんででしょう。
ギルド登録が済んだところでやっとカルマちゃんから解放された小鳩が駆けつけてきました。
「なんでギルド登録しちゃうんですかっ!」
「ご、ごめんなさい勝手に決めちゃって。でも、皆さんいい人そうですし……」
「あぁうぅぅ~……」
ごめんなさいと謝ると床に崩れ落ちる小鳩。
そんなに嫌だったんですか?
で、でも私と小鳩の2人きりよりは安全だと思いますよ?
「さぁさぁ、とりあえず疲れてるだろうから部屋を用意するよ。スズメ、1人部屋でいいかい?なんだったらあたしと相部屋でもいいんだよ?」
「えっ!いえいえ!1人部屋で大丈夫です!それに小鳩もいますしっ」
「そうですっ!魔女と同じ部屋だなんてとんでもないっ!」
なぜだかまたもやクジャさんから流し目を送られているような気がするんですが……。
まぁ小鳩も復活したのでいいでしょう。うん。
あ、この世界では基本的にプティも併せて1人とみられるので、宿屋とかでも1人部屋に大小2つのベッドがあるのが基本です。
「ちっ……リラ、3階にまだ空き部屋があったかねぇ?」
「ありますよ~。一応ベッドとかも一揃い入ってますし大丈夫です~」
「……はぁ、……じゃあ案内してあげな」
「了解です~。じゃあスズメちゃんと小鳩ちゃん、ついてきてね~」
リラさんが明るく手を上げて奥の扉に向かっていくのでそれについていきます。
クジャさんはなんだかため息をついていたようですが大丈夫でしょうか?
店の奥の扉から階段を上がってリラさんに連れられてきた部屋はこじんまりとしつつもベッドやタンスの所々に木彫りの装飾がちりばめられた可愛らしい部屋でした。
窓枠の外にプランターで花が植えられているのも素敵です。
「この部屋を自由に使ってね~。何か足りないものがあったら基本は各自で揃えていって。あ、掃除道具とかは廊下のロッカーにあるからね~」
「わかりました。ありがとうございます」
「ご飯は1階に食堂があるから時間になったら案内するよ。あとは~まぁ追々ね。あ!誰かにセクハラされたらちゃんと抗議するんだよ~」
「へ?せ、セクハラ……?」
なぜにセクハラ?
男性は3人だけなんですよね?
それにその方達もクジャさんの話だと今はいないようですし……。
「うちのギルドは半数がネカマだからね~。まぁ今は本当に女になってるから身の危険は少ないかもだけど」
「……えぇ?」
「あれ?知らなかった?私もクジャ姐さんもネカマなんだよ~」
「ね、ネカ、マ……?」
「ネカマってのは実際には男だけど女キャラを使ってロールプレイしてる人のことだよ~」
いや、ネカマの意味自体は知っていますよ。
ちょっと驚きすぎて言葉が出てこないだけです。
リラさんは夕食の時間になったら迎えにくると言って衝撃を残して去っていきました。
「?……スズメ様、さっきの話の意味わかりましたか?私にはよくわからなかったんですが……」
そうですよね、小鳩にはこの世界が現実なわけですからネカマとか言ってもわかりませんよね。
「え、あ、えーと、つまりクジャさんやリラさんは体は女性だけど心は男性ってことです……たぶん」
「なっ!やはり危険人物じゃないですかっ!」
「いや、でも今は女性なわけだから……大丈夫ですよ」
……たぶん。
「くそっ、あの魔女め~~っ!」
それから暫くは小鳩によるクジャさんへの抗議が部屋に響いていました。
それを聞きつつも、さすがに疲れた私はベッドにダイブ。
なんだかこの柔らかさが久しぶりに感じます。
お布団の気持ちよさに瞼が重いです。
これから色々ありそうですがきっとなんとかなるだろうとちょっと楽観的な考えになりつつも私は意識を手放しました。
とりあえず一段落のここまでです。
少しでも楽しんで頂けていたら幸いです。
これから先はネタはあるのですが文章に出来るかどうか……。
あ、もしネタがあったら感想などで教えてくれると妄想が膨らみます。