第5話 てっきりオカルトだと
「まあ、そう言いたいのも判るが、ヒカルは一度そういう本を読んでおるぞ」
「え?読んで無いと思うけど。ニセ科学とかオカルト論とかなら読んだ記憶があるけど」
「題名を見ずに読んだ本のようじゃが、儂が言った事を書いておる本はあるな。まあ、ぬしゃらはもう見れんから意味は無いか。話を戻すが、流速は可視化せんとどうにも掴み難いようじゃから、地球と月とエーテルがどう流れているのか見せてやろう」
教室の後ろ半分が消失して、広い床が出来た。学校の狭い体育館を2階から見た様なアングルだ。かみさまが手摺の方に滑って行くが、服装がクールビズみたいになっている。そのまま手摺をすり抜けると、真下に直径2m位の地球と50cm位の月が現れた。
「では、背景を秒速30kmで動いている見え方にして、地球は自転だけ、月は公転だけにしてみよう」
神様がそう言うと、床が星一面の背景になった。そして、曲線を描きながら右から左に流れていく。かみさまの手の上にさっき見た白い粒々が立体になったのが浮かんでいる。
「これが、ニュートリノを可視化したモノだと思え」
と言ってポイっと下に落とすと、何百倍にも増えて体育館中に広がった。ところが、殆ど動いていない。背景の星々は流れているのに、動いているのは地球の周辺と月の周辺だけだ。しかも、地球から離れた場所の方が速く回っている様に見える。その所為かは判らないが、地球の表面付近の流れより月の動きと周辺の流れは地表よりかなり速い感じだ。
「ヒカル。地表の速度と、月の公転速度って秒速幾つだっけ?」
「え?秒速?秒速だと地表は465mで月は1000mちょっとだったかな?」
「かみさま。この地球から少し離れた所で流速が上がっているのは、バン・アレン帯の影響ですか?」
「名前はぬしゃらの知識分しか判らんが、そこは大量の電子が流れている場所じゃな」
「その影響が遥か月まで届いている、と。そして地表は流れが全く無い場所になる。これは、知らなければマイケルソン・モーレーの実験は失敗扱いで、知っていれば成功扱いになるって事だよな」
「兄さん。もしそれが本当だとしても、相対性理論を証明した実験の結果は覆らないよ?実験で時間が遅れる事は証明されたよね?」
「む。そう言えばそうだな。流れで曲がるかと思ったが、光の速度に対して流れが遅過ぎる。流れの影響が無いのなら、曲がらないんだから遅く着く事にはならないよな」
「いいや、曲がるぞえ。さっき出した黒板の図にあったじゃろう。光は曲がると赤方偏移するし、曲がると本来の経路より長くなるから到達は遅くなる。別におかしくは無かろう」
「え?ちょっと待って下さい。さっきの赤方偏移はボイドの中身の密度が高かったから曲がったんですよね?下にある地球の周りに、ボイドと同じ様な密度差があるんですか?」
「あるぞ。丁度いいから先程の重力の話に合流させるが、先ずは密度差の具象化をしてみせよう」
と言うと、真下の地球と月がパチンと弾けて神様の周りに集まった。背景の星も消えて真っ黒の上に、大量の粒子が浮いている状態になった。そして、神様がさっきの地球と同じ大きさの輪っかを持っている。
「最初の方で言ったように、ぬしゃらが居った宙域はありとあらゆる場所が9次原子、即ちニュートリノでみっちみちに詰まっておる。そこに10次原子の一個でも入ってくれば、9次原子は脇に押しのけられる。しかし、注意せねばならんのは、押しのけるのは原子丸ごとではなく、陽子と中性子と電子の部分のみという事じゃ」
「ええと。原子の大きさを球場に例えると、原子核の大きさは直径2cmのビー玉くらい。つまり、押しのけるのは体積で1兆分の1くらい?んん?怖ろしく小さ過ぎる様な気がするんですが、これで何か変わるんですか?」
「既にヒントは出しておるんじゃが、思い付かんもんなんじゃな。今、下にあるみっちみちの空間に、地球を入れてみると」
リングの中に青色の粒々が入っていて、それが白の粒々の空間に重なると、リングの範囲内にあった白の粒が大量に外に弾き出された。白の粒々はリング付近で高密度になって、外に向かうにつれ徐々に密度が減っていった。
「このようになる。こうしてニュートリノは地表付近が最も高密度な状態になる訳で、つまり密度差によって光は地表側に曲げられる。即ち、光は重力によって曲がるのではなく、密度差で曲がると言う訳じゃ」
「えっ?太陽や惑星や銀河の重力で曲がっていたって言われてたあの現象って、全部密度差による屈折の所為なの?」
「そうじゃ。さっきの光の曲がり具合で判ったと思っておったんじゃが、漸くか」
「光が曲がる現象は密度差の屈折で、光が遅れる現象は屈折に因る伸長。確かにおかしくはないけど、重力は密度差で発生する?どうやって?」
「さっきの浮力の話で、振動って言ってたけど、それが関係するんじゃないの?」
「ああ。全部振動してるんだったか。んん?でも、振動で弾き飛ばされるのなら、隙間が多い上の方に向かって行く気がするけど、それはおかしいよな」
「またけったいな方に想像を膨らませるの。そこまで概念を理解しておるのに、重力の現象を思い至るに足らんか」
かみさまが下の図形を消す。そして、目の前に青い球体が現れた。ボーリング球ぐらいだ。その横に白い粒々が正方形に並んだ板みたいなのが現れた。
「球が原子核で板がニュートリノの粒子群だと思え。そして、粒子の下側は密度が高く振動幅が小さい。上側は密度が低く振動幅が大きい。これを重ねると」
2つの図形が重なった。すると、球は周囲の粒子の振動で多少ランダムに動きながら、下の方にするすると動いていって、粒子の範囲外に出ていった。
「今ので判ったか?ツカサよ」
「はい。何とか。今のは、受ける振動エネルギーの総和において、原子核一つ分であっても密度差と言うか振動差があって、密度が薄い場所は振動の幅が大きくなるから受けるエネルギーが大きく、密度が濃ゆい場所は振動幅が小さくて受けるエネルギーが小さい。そのエネルギーを全部足すと、相反するエネルギーは中和され、残った僅かな下向きの力が原子核を下に動かす。その現象の総和が重力なのだと理解しました」
「うむうむ。では、一番最初に儂が「浮力とそっくり」と言うたのはどう思う?」
「ああ、それに反発していましたね。僕は。でも、浮力を振動から考えた現象と、重力を振動から考えた現象は…どうにも似ていますね。重い軽いの違いはあれど、振動の総和が上か下に向かうのだと考えれば、確かに似ています。同じ10次元同士の原子の振る舞いか、次元の違う原子同士の振る舞いかで、浮力か重力になると考えると、腑に落ちました」
「ようやっと落ちたか。儂に言わせれば、重力なんぞ星の本質を全く表さぬ豹変する指標に過ぎぬ。そんなものに固執しても意味なぞ無いのじゃから、視野は広く持たねばあらぬぞ?」
「あの、納得出来る結論が出た後にいきなり納得出来ない言葉が聞こえたのですが」
「ん?何の事じゃ?儂は別におかしなことは言っておらん」
「言って無いと思うからこそ、ですよ。今、重力が豹変すると言いませんでしたか?」
「言ったぞ。今までの説明で予測が付くと思うが、重力ほど体積と乖離した情報源は無い。ぬしゃらは重力で質量を論じておるが、生前の、ええと…太陽系じゃったか。あの中に地面、いや地殻か。ソレを持たぬ星など存在せぬぞ」
「え?」
「嘘でしょう!?」
「嘘なものか。というか、ヒカル」
「は、はい」
「お主、その写真を見ておったという記憶があるが、覚えてはおらんのか?」
「え?あのオカルト雑誌の写真の事ですか?アレは陰謀論みたいなモンか、読者を惑わすための嘘情報でしょう?」
「固定概念が強固だと、事実も真実も自分勝手に嘘偽りに挿げ替えるんじゃのう。嘆かわしい事じゃ」
「アレが真実?え?木星も土星も天王星も海王星も海か地表があったけど、あれが実際は本当の写真だった?」
「そうじゃ」
「え?は!?あれ?全部?え、そ、それじゃ!かみさま!」
「なんじゃ」
「あ、あの写真の他に、た、太陽の写真がありました」
「おう、あったな」
「あれも、あの写真も事実だと?真実が写っていると?」
「そう言うておるではないか」
「えええぇぇぇ…。そ、そんなに前から自分の目の前にヒントが転がっていたのに、僕は何を読んでいたんだ。何も学んでいないじゃないか」
「ちょ、ちょっとひかる」
「何?兄さん。コレでも落ち込んでいるんだけど」
「いやそれは判ってるんだけど、太陽の写真って地面の写真なのか聞きたくて」
「ああソレ。うん、まあ、その通りだね。海と山と火山が幾つもある写真だったよ」
「お、見せられそうな位鮮明なイメージになったな。ほれ、全部の地表を並べてみたぞ」
かみさまがそうと言うと、正面に9つの写真が並んだ。左に円形のでかい白黒写真。そしてカラーで水星、金星の表面写真、地球、火星と並び、白黒の大きい写真が4枚、大、若干大、中、中と並んだ。
「当然だがデカいのが太陽の表殻写真じゃな。白抜けの所は海じゃ」
「やっぱり海?海?今、ひかるもかみさまも海って言いました?」
「言うたぞ」「言ったよ」
「冗談でしょう?太陽ですよ?表面温度6000度の灼熱地獄ですよ?フレアが飛び交い、磁気嵐と光速の電子が入り乱れる、獄炎の世界で海は無いでしょう?」
「そりゃ、そんな場所から20万キロ以上下の空間の話じゃからの。この球体の直径は大体100万キロじゃ。それでも地球の80個分くらいはあるが」
「直径100万キロの表殻球体?いや、20万キロの空間って何なんですか?そこも灼熱地獄じゃないんですか?」
「そういえば、兄さん。太陽って温度の矛盾点があるって言われてたよね」
「あ?ああ。中心温度が1500万度でコロナの温度が100万度以上あるのに、途中の表面温度が6000度、黒点に至っては4000度しかない。温度差があり過ぎると言う矛盾点はあったな」
「じゃあ、中心の温度だけ間違ってるんじゃないの?」
「えっ?1500万度の部分だけ間違いで、表面は水が存在する温度だと言いたいのか?」
「表面温度はぬしゃらの尺度で言えば25度前後じゃの」
「ほら。かみさまもそう言ってるし」




