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Excelなら1秒シリーズ

王宮魔導師が一生かける難解術式、Excelなら1秒で終わるんですが?【4/14続編公開しました!】

掲載日:2026/03/18

「アズサ! 緊急事態だ! 今すぐ魔法庁の『魔法予算・一律5%削減案』を作成してくれ! 期限は明日の朝だ!」


 上司である財務卿の叫び声に、私はようやく口をつけたばかりの、ぬるくなったハーブティーを机に置いた。

 時計を見ると時刻は16時59分。定時まであと1分。


「5%削減って…… 騎士団の魔導具維持費も、王立学院の研究費も、下町の結界維持費も、全部一律ですか?」

「そうだ! 国王陛下が急に『自分の誕生日パーティーに金を使いたい』と仰りだして……。予算申請書を全部書き直すんだ! 」


 この国の予算管理は、地獄だ。

 各部署から上がってくる『羊皮紙の申請書』を、文官たちが手作業で集計し、計算間違いがあれば最初からやり直し。条件が変わったらどうなるかという見通しなんて、この世界には存在しない。


 まさに、前職で社長の思いつき(メテオフォール)に振り回され、一晩で数億円規模の予算表を組み直させられた、あの悪夢の再来だ。


 ……前職? 社長? このファンタジーな世界観でいったい何の話をしているのかって?

 そう、私はもともとこの世界の人間ではない。


 私の名前はアズサ・タナカ。年齢はアラウンドサーティ。

 前職は、某有名IT企業のディレクターだったか、奴隷だったか、もうどっちか分からない。

 ブラック企業という言葉すら甘く感じるほどの、限界労働。毎日が定時《午前二時》退社。上司のパワハラ、クライアントの無理難題、そしてバグだらけのシステム。


「私、明日死ぬかもしれねェ……」

 私は毎日死を覚悟しながら、薬(エナドリ)を流し込んでいた。


 そんなある夜、私はデスクで意識を失い、気づけばこのファンタジーな異世界――グラン・マギカ王国に召還されていた。

 聖女としての素質を期待されたが、鑑定の結果は『スキル:Excel』


「チッ、ハズレスキルか」


 第一王子にそう舌打ちされ、私は王宮の片隅にある「魔導管理課」に事務員として放り込まれた。


(すいませんね。大したスキルも資格もないOLで)


 だが、私にとって、それは「ハズレ」どころか、人生最大の「アタリ」であることを後に知る。


 ***


「アズサ! あんたまだ仕事?」


 私のデスクに、同期の文官、エルナが駆け寄ってきた。


「うん……この魔法予算の削減案を作らないといけないから」

「信じられない……こんなのを一人で一晩で終わらせろなんて、絶対に無理よ! 」


 エルナは、私の前に積まれた羊皮紙の山を見て、声を上げる。


「ああ、こんなときExcelがあればなぁ……」


 私は、思わず、前職で最も愛用していた、最強の相棒の名前をぼやいた。

 その瞬間。


――スキル『Excel』が、発動しました。


 私の脳内に、機械的な音声が響き渡った。


「え?」


 呆然とする私の視界が、一瞬で変貌した。


 羊皮紙の山が、青白い光を放つセルに見える。

 空中に、『A, B, C...』というカラム名と、『1, 2, 3...』という行が現れた。

 そして、私の頭の中に、『fx』という文字と、数式バーが浮かぶ。


「これって、まさか……?」


 私は、震える手で羽ペンを動かす。


「スキル『Excel』……ってこことは……」


 私は、羊皮紙(セル)を一枚一枚めくる代わりに、頭の中で数式を組み、羽ペンを空中で操作した。


「=SUM(C2:C5000)」


 私の唇から、呪文のように関数の名前がこぼれる。


 その瞬間、山積みの羊皮紙が、まるで生き物のように勝手に動き出した。

 予算の合計が、瞬時に一つにまとまる。


「え、えええ!?」


 隣にいたエルナが、叫び声を上げる。


「な、何!? 今、何が起きたの!? 魔法!? でもアズサは魔力が……!」


「魔法じゃないわ。ただの『SUM関数』よ。……次に一律5%カット」


 私は数式バーに呪文を打ち込む。

 =B2 * 0.95

 指をスッと下ろす動作(オートフィル)一つで、数千行の予算案が一瞬で書き換わった。


「条件付き書式、発動。……予算が足りなくなり、結界が崩壊する危険がある箇所を『赤』で塗りつぶせ」


 パッ、と視界の一部が真っ赤に染まった。

 下町の貧民街の結界維持費だ。ここを5%削れば、魔物が侵入して街が滅ぶ。


「……やっぱり。一律カットなんて素人のやることね」


 私はさらに指を動かす。


「=VLOOKUPで、不要な宴会費と、無駄な魔導具の在庫データを参照。……こっちの『無駄な予備費』から削れば、結界は守れる」


「ア、アズサ……? 何をしているの? 空中で指を踊らせて……」


「『ピボットテーブル』展開。部署ごとの集計完了。目標削減額に対して、最も影響の少ない予算配分を逆算……。はい、出ました」


 発動からわずか10分。

 私は空中に浮かぶ確定したデータを、机の上の白紙の羊皮紙へと一括出力(エクスポート)した。


 ***


 翌日の昼下がり。

 私は上司のデスクに、完璧に整理された予算削減案を置いた。


「……え?」


 上司が、目を見開く。


「終わった? 何が?」


「予算削減案です。特定の予算名目、出費額でソートできるように、フィルタも作成しておきました」


 上司は、震える手で報告書を取る。

 そこに描かれていたのは、彼らが数日がかりで作成していた、手書きの、非効率な表ではなく、驚くほどシンプルに、かつ論理的に整理された、新しい表スプレットシートだった。


「な、……なんだこれは! これでは、特定の記録が、数秒で見つかるではないか!」


 上司は、口をパクパクさせ、信じられないという表情で、報告書と私を交互に見る。


「ア、アズサ、お前、一体……」


 上司の言葉を遮るように、私はもう一つ、束ねた羊皮紙を差し出す。


「それと、こちら。先ほど外交官から要求された、魔導術式の仕様変更の修正です。……あ、念のため、マクロも組んでおきました」


「は? 魔導術式の……修正? ……あ、おい、待て! お前、どうやってこれを?」


 上司は、私が作ったピボットテーブルのような魔法配列を見て、さらに顔を青くする。

 魔法の呪文を、Excelのカラムに展開し、最適化したのだ。

 魔導師たちが頭を抱える難解な魔法配列を、私はスプレットシートで表化した。

 彼らにとって、それは魔法以上の「奇跡」だった。


「え、Excelを使っただけですが?」

 その日から、私の「無双」が始まった。


 魔導師たちが頭を抱える難解な魔導書の解読?

「=SUBSTITUTEで文字を置換し、=TEXTで整形すれば、瞬時に終わるわ」


 無礼な他国の外交官が突きつけた、難解な古文書の解読?

「え、こんなの余計なスペースが入ってるだけですよね? =CLEANで瞬時に直せますよ」


 魔王軍の襲来よりも、金曜18時の仕様変更の方が怖かった私にとって、この世界のブラックなんて、チャコールグレーだ。


 そして、ついにある日。

 私は、国王陛下と第一王子に、玉座の間に呼び出された。


「アズサ・タナカ。お前の有能さは、この国の宝だ」


 国王陛下が、厳(おごそ)かに告げる。

 その横で、かつて私を「ハズレ」と呼んだ第一王子が、気まずそうに目を逸らしている。


「そこで、お前を王宮特別補佐官に任命し、私の直属の部下としたい。お前には、この国の全ての事務作業を、お前にやってもらいたい」


 国王陛下は、満足げに笑う。

 隣にいる宰相は、嫌な予感しかしない、新たな雇用契約書を差し出そうとしていた。


 ……王宮特別補佐官? 国王陛下直属?

 つまり、年中無休24時間労働(スーパーブラック)への誘いだ。


 私は、笑顔で、宰相の手から契約書を――


 ――受け取らずに、一歩、下がった。


「国王陛下、お言葉ですが」


 私は、はっきりと告げる。


「お断りします」

「……え?」


 国王陛下も、王子も、宰相も、呆然とした声を上げる。


「私は、定時で帰って、あっちの角のパブでエールを飲むって決めてるんで。失礼します」


「て、定時……? パブ……?」

「はい。前職の経験から残業は悪と学びました。Excelは、私が楽をするためのものであって、ブラック労働をするためのものではありません。……Excelは、外れスキルじゃありませんから」


 私は、笑顔で、一礼する。

 呆然とする国王陛下たちを背に、私は、颯爽と玉座の間を後にした。


「おい、待て! 補佐官になれば、莫大な報酬が……!」


 背後で宰相の声が聞こえるが、無視をする。

 私はこの世界を救う聖女ではない。だって私が守るべきはこの世界ではなく『定時』(私の世界)なのだから。

 私は、王宮の門をくぐり、夕日に向かって、大きく背伸びをする。


「んん~! 本日の業務終了ぅ! さて、エールを飲みに行こう!」


夕焼け空を見ると、『fx』の文字が静かに輝いていた。

【4/14】続編公開しました!

S級パーティが数年かけるダンジョン攻略、Excelなら1秒で終わるんですが?

https://ncode.syosetu.com/n2475mb/

※シリーズからも飛べます


***

「異世界転生おばあちゃん ~王子を孫扱いしていたらなぜか溺愛されています~」連載中です。

人生80年の知恵と図太さで異世界を無双していくおばあちゃん(見た目は少女)のラブコメディです。

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― 新着の感想 ―
王族からの話を断ってそのままでいられるわけないだろ
ツッコミどころ満載だけど、エクセルSUGEEEEだからこれでいいんやなw 王命拒否だけはひと工夫欲しいかも?
私はExcelを使わない専門職に就いていたので、この作品を読んでるとナンノコッチャよぅわからんけど凄そうだ…っていう異世界の人と同じ反応になってる自信がありますw
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