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第5話 今さら「戻れ」笑わせないでいただけますか

第5話 今さら「戻れ」笑わせないでいただけますか


「……お断りします。私は二度と、あの国の土を踏むつもりはありません」


帝都・ガルディアの謁見の間。

私の前には、かつて私を「地味で無能」と蔑んでいた王国の使者——カイル王太子の側近である騎士が、青い顔をして跪いていた。


彼の背後には、数名の文官。皆、一週間前とは打って変わって、縋るような目を私に向けている。


「そんなことをおっしゃらずに! エルナ様がいなくなってから、王都の魔導炉は火が消え、農地は枯れ、騎士団の剣は飴細工のように折れ曲がっているのです! これは……これは国家の危機なのです!」


「……それを私に言われても困ります。あの日、殿下は『ゴミ箱に捨ててやる』とおっしゃいましたよね?」


私の冷ややかな声に、使者は言葉を詰まらせた。

そう。私が丹精込めて作り、維持していた「国家の根幹」を、彼らは自分たちの実力だと勘違いしてドブに捨てたのだ。


その時。

私の隣で、重厚な玉座に深く腰掛けていたゼノス陛下が、低く笑った。


「……おい、フォレスト王国の虫ケラ。私の耳が腐ったかと思ったぞ」


その瞬間、広間の空気が凍りついた。

ゼノス陛下が放つ圧倒的な威圧感——「殺気」に近いそれが、使者たちを物理的に押し潰す。


「我が国の至宝であり、私の恩人でもあるエルナを、あんな泥沼のような国に連れ戻そうというのか? ……死にたいのか?」


「ひ、ひぃっ……! ぜ、ゼノス皇帝陛下! これは両国の友好のため……!」


「友好だと? 貴様らは彼女を冤罪で追い出し、雨の中、魔力欠乏で死にかけさせた。それは我が帝国に対する『宣戦布告』と受け取ってもいいのだぞ?」


ゼノス陛下は立ち上がり、ゆっくりと使者の前まで歩み寄る。

彼の手には、私が浄化した聖剣『ヴォルガ』が握られていた。鞘に収まったままでも、その神々しい輝きは使者たちの「錆びついた剣」とは格が違うことを示している。


「戻る場所など、どこにもない。エルナは今、帝国の最高筆頭錬金術師として、私の隣にいる。……帰ってあの愚かな王太子に伝えろ」


ゼノス陛下は、私の肩を抱き寄せ、これ以上ないほど傲慢に、そして深く微笑んだ。


「『エルナが欲しければ、軍を率いて奪いに来い。返り討ちにして、その首を門に吊るしてやる』……とな」


「そ、そんな……! お、お助けをー!」


這いずるようにして逃げ出していく使者たちの背中を見送りながら、私は小さく溜息をついた。

……少し、やりすぎではありませんか、陛下?


「……フン。これでも抑えた方だ。エルナ、あんな奴らの言葉に耳を貸すな。お前には、もっと相応しい仕事と、贅沢な生活が待っている」


彼は私の髪を愛おしげに撫でる。

その瞳には、先ほどの冷酷さは微塵もなく、ただ真っ直ぐな執着と情愛だけが宿っていた。


一方その頃、フォレスト王国。

戻った使者から報告を受けたカイル王太子は、絶望に震えていた。

彼の自慢だった義妹・ミーナの錬金術では、蛇口から出る水一杯すら浄化できなくなっていたのだ。


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