第4話 その「呪い」私にとっては最高のスパイスです
第4話 その「呪い」私にとっては最高のスパイスです
看病生活が続いて数日。少し体力が戻った私は、どうしても気になることがあった。
ゼノス陛下の腰に下げられた、禍々しい漆黒の剣だ。
「……陛下、その剣。ずっと鳴いていますね」
食後のティータイム、私はおそるおそる切り出した。
ゼノス陛下の表情が、一瞬で険しくなる。
「気づいたか。これは我が帝国に代々伝わる魔剣『ヴォルガ』だ。強力だが、凄まじい呪いを放つ。私以外の者が触れれば、たちまち精神を焼かれ、廃人になるだろう」
彼の指先を見れば、剣の柄に触れる部分が薄黒く変色している。
彼は、自らの身を削りながらこの国を守っているのだ。
「……少し、拝見してもよろしいですか?」
「よせ! お前のような細い腕で触れれば——」
制止の声を無視して、私はそっと剣の鞘に触れた。
瞬間、ドロリとした負の感情が流れ込んでくる。
(……ああ、お腹が空いているのね)
私は微笑んだ。
フォレスト王国では、これより質の悪い「呪物」を毎日一人で処理させられていた。この程度の呪い、私にとっては極上の錬金素材に過ぎない。
「エルナ! すぐに手を離せ!」
慌てて駆け寄るゼノス陛下と、背後に控えていた帝国騎士団の面々。
だが、私は懐から小さな小瓶を取り出した。中には、私が今朝、庭の隅で見つけた鉱石とハーブを組み合わせて即席で作った『高純度抽出溶剤』が入っている。
「……『等価交換、負を正に、闇を光の糧に』。——変換!」
パリン、と小瓶を剣に叩きつける。
次の瞬間、広間が視界を焼くほどの純白の光に包まれた。
「なっ……何事だ!?」
「呪いの波動が消えた……? いや、それどころか、神聖な魔力に満ちていくぞ!」
光が収まった時。
そこにあったのは、禍々しい黒剣ではなく、透き通るような蒼銀の輝きを放つ、美しき聖剣だった。
「……はい、陛下。お掃除完了です。ついでに、陛下の魔力と共鳴するように術式を組み替えておきました。もう指が痺れることもありませんよ」
しんと静まり返る広間。
最強の帝国騎士たちが、口を半開きにして私と剣を交互に見ている。
「……エルナ。お前、今、何をした?」
ゼノス陛下が、震える手で剣を抜く。
かつての重苦しさは消え、剣は羽のように軽く、それでいて一振りすれば山をも断ち切りそうな神々しい魔力を帯びていた。
「ええと……少し『不純物』を取り除いて、味付けを変えただけですが……」
「……バカな。我が国が数百年、名だたる錬金術師を動員しても解けなかった呪いだぞ……?」
ゼノス陛下は呆然とした後、不意に私を抱きしめた。
今度は保護欲ではなく、魂を揺さぶられたような、強い衝撃を込めて。
「……決めた。エルナ、お前を絶対にフォレスト王国には返さない。たとえあいつらが国を挙げて土下座しに来てもだ」
その頃。
フォレスト王国では、主力騎士たちの武器が次々と錆びつき、折れ始めていた。
「錬金術師のメンテナンス」という名の魔法が解けた事実に、彼らはようやく気づき始めていた。




