邂逅
本日の午後六時ごろ、短編小説を投稿します。
ビルの中は異臭を除けば至って普通だ。しばらく誰も出入りしていなかったのか、ホコリが多く、ところどころ蜘蛛の巣がはってある。
アリスは魔術で炎を生み出すと、それを明かりにしてビルの探索を始めた。俺は周囲を警戒しながらついていく。
さらに奥へと進むと広間への入り口を発見した。扉は無理矢理外されたようで、ぐにゃりと曲がった状態で床に倒れている。
「――行きましょう。おそらくこの先にいる」
彼女の言葉に息をのみ、剣を前へと構えながら入っていく。
―――そして、入ってすぐに、それは視界に映りこんできた。
見てくれはスーツを着込んだサラリーマンのそれだが、彼の目は赤く血走っており、右手には女性が掴まれていた。
女性は髪を強く引っ張られ、顔や足などから血が出ている。
「――っこの!」
「止まって」
俺が前に出ようとすると、アリスの声と腕に制止された。
「大丈夫です。彼女はまだ生きてる。だから落ち着いて、下手に突っ込んでも返り討ちに合うだけです!」
彼女の言葉にハッとし、落ち着いて見てみると、か細くはあるがたしかにしっかりと呼吸をしていた。
「!、なんだお前らは」
ここで敵も俺たちに気づく。
「『教会』の回し者か?…いや違うな礼服を着ていない」
――教会?
と疑問に思っていると、目の前の男は地面蹴りつけて突進してきた。
「うっ!」
俺は襟首を思い切り引っ張られ、横に転倒した。
突然のことに脳が追い付かないままあたりを見回すと、ヤツが踏みつけた地面は罅割れ、俺が立っていた場所はヤツの突進で抉れていた。
「晴明、無事ですか?」
「あ、ああ。大丈夫!」
どうやらアリスが助けてくれたらしい。俺は動揺しながら返事をする。
「すみません!すぐアイツを―――」
倒す。と言って立ち上がろうとしたのをアリスの腕によって再び止められた。
「この前の戦いでは情けないところ見せてしまいましたから、今回は私にやらせていただきます!」
彼女は自信に満ちた笑みを浮かべながら、そう言った。
―― * * * * ――
男が吸血鬼となったのは半年ほど前のことだ。会社での仕事に疲れ、酒でも飲んで気分転換しようと、酒場へ寄った日のこと。
平衡感覚がなくなるほど酒を飲み、家へと帰っている途中に、ソレと出会った。
『なんだお前ぇ、どこ見て歩いてんだ!派手なかっこうしやがって!』
きっかけは些細なことだ、歩いていたら見知らぬ男と肩がぶつかり、酔った勢いでいちゃもんをつけた。ただそれだけ。
相手が一般人だったならば、通報されて終わりだっただろう。しかし今回は相手が悪かった。
『ちょうどいい。この街にはあの方の手足が少ないと思っていたところだ』
それには生気というものがまるで感じられなかった。灰色の髪と虚ろな赤い目、そして中世の貴族を思わせる格好をしているモノ。
ソレは男の首元へ牙を立てると、血を一気に吸い上げる。
『――な、え?』
男は何が起きたか理解できなかった。
体内の血が一滴もなくなると、ソレは男をゴミのように地面へと投げ捨て――
『せいぜい、働くがいい…』
それだけ言い残して消えていく。
男は目を覚ますと、自分の体が人ではない別の何かに変わったのだと本能的に理解した。理解の後にやってくるのはとてつもない優越感と人を殺したいという欲求。
そして、鉛のような足取りで家へと向かい、その欲求のままに家族を殺した。
その際、彼は脳が快楽に支配されるのを感じ取った。
『すばらしい!今まで真面目働いていた自分が馬鹿らしくなってくる…ははは!人間はなんて弱いん生き物なんだ。そして私はそんな劣等種よりも上の存在となったんだ!!」
それが吸血鬼となってから彼が持つようになった価値観…故に、この状況は彼にとって到底受け入れられるものではなかった―――
それは戦いとは言えないものだった。
男は果敢にアリスへと攻撃を仕掛けるが、当のアリスはひらりと避ける。
「っうぅ!」
男はアリスにかすり傷ひとつ与えることもできない。
そのことにいら立ち、再び地面を蹴りつけて高く跳躍した。怒りに任せて鋭い爪をアリスへと振り下ろすが、アリスはそれを半回転でよけ、大振りによって隙だらけとなった腹へと拳を叩きつける。
男は気づいていないが、アリスの肉体は現在、強化魔術により身体能力が格段に向上している。
男は吹き飛ばされて壁へと激突し、無様に地面へと倒れこんだ。
「な、んで人間なんかに……!」
こんなことは認められないと男は叫び散らしす。
(馬鹿正直に突っ込んでくるだけ…この前のヤツのような異能はなさそうですね)
以前戦った改造吸血鬼は魔力を乱し、魔術を無効化するというとてつもない反則技使ってきた。
それに対して、目の前の男は吸血鬼化したことで激上した身体能力にかまけて、ただ突っ込んでくるだけ。策を弄することがなければ、異能を持っているわけでもない。
おそらく吸血鬼化して日が浅いのだろう。
「一応聞いておきます、あなたはサンジェルマン伯爵が今どこにいるかご存じでしょうか?」
「――?、知らない」
観念したのか素直に答えた。
それを聞くとアリスは右腕に魔力を溜め始めた。サンジェルマンについて知らないのなら生かしておく必要はない。男に照準を合わせ、魔力を解き放とうとした瞬間―――
「――――!」
入り口から飛来したアリスとは別の魔力によって、男は粉々に消し飛んだ。
「誰だ?」
アリスは魔力が飛んできた方向へと視線を向ける。
そこには――不気味な笑みを浮かべた白髪の少年が、幽鬼のように立っていた。
伯爵には何名かの配下がいます。
彼らは世界中に散らばっており、好き勝手行動する者と伯爵のために頑張ってる者で分かれています。




