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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『より深くへ』
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探索

 「あ~、疲れた」


 晴明の通う学校。

 現在は午前の授業が終わり、昼休みに入ったところだ。教室を見渡すと、お弁当を持って仲の良いグループで固まる者や、購買に昼飯を買いに行く者がおり、教室は騒がしさに包まれていた。


 そんな中俺はというと、弁当を取り出すわけでも、購買に行くわけでもなく、机の上に突っ伏している。


 昨日、一昨日の疲労が一気に来たからだ。

 体の傷に関してはアリスさんが治してくれたものの、体力ばかりは完全には回復しきらなかったため、俺は今完全に無気力状態になっている。


 「どうしたんだよ晴明、昼飯食わないのか?」


 このまま寝てしまおうとしたら、不意に声をかけられた。――和人だ。


 「ああ。今は食欲よりも眠気がヤバい!昼休みはすべて睡眠に使う。わかったらどっか行ってくれ」


 「いいけど、五限目は体育だぜ。パンの一つくらいは口に入れとけよ!」


 それだけ言って和人は自分の席へ戻っていった。




 昼休みが終わり、午後の授業もつつがなく終了。

 部活や委員会などの用事があるもの以外は、全員すみやかに下校した。俺も特に学校に用事は無いので帰路についた。


 ―――ちなみに、アリスさんに協力するといったにも関わらず、普通に学校に登校していた理由はというと、伯爵への手がかりとなる吸血鬼が活動するのは主に夜中であるためだ。

 昼間は普通に過ごしていいと言われている。


 (―――正直ありがたい。学校をさぼる言い訳とかあまり思いつかないし……)


 一週間ぐらいならインフルにかかったとでもいえば何とかなるかもしれないが、それ以上だと流石にきつい。


 「―――!ああ、すみません」

 

 考えごとをしていたら、通行人と肩がぶつかってしまった。

 ―――見た目は中学生ぐらいで、色素が抜け落ちたような白い髪を持ち、それを後ろでまとめている。


 その少年は驚いた表情を見せた後、なぜかジッとおれの顔を見つめてきた。

 

 「…あの……何か?」


 「いえ、こちらこそすみません……失礼ですが、名前をお伺いしても?」


 「?、夏村晴明です………」


 なぜ名前を聞いてきたのかはわからなかったが、特に隠すことでもないので教えた。


 「夏村………いい名前ですね!」


 少年はそう呟き、「それでは、また……」と、軽く会釈をし、歩みを再開させる。

 どうしてかはわからないが、俺は何となく、少年が見えなくなるまでその後ろ姿を見つめていた。



 ――   *   *   *   *   ――



 時刻は午後の十時を過ぎ、俺はアリスさんと街で吸血鬼探しをしていた。

 あたりはとても静かで、人はまったくいないわけではないが、ほとんど見当たらない。路地裏などの人目の少ない場所を中心に探していく。

 

 今のところは何事もなく進んでいるが、先日のこともあって俺は怯えたウサギのようにあたりを警戒し、挙動不審になっていた。

 そんな俺の様子に気づいたのか、アリスさんが話を振ってきた。


 「―――どうかしましたか?そんなに緊張して」

 

 「あ、いや。この前の吸血鬼との戦いを思い出して緊張しちゃって…」

 

 アリスさんは俺のぎこちない返答に納得したような表情を見せ――


 「いきなりあんな体験したのですから仕方ありません。前のように一度に大量に死人が出たりするのは、そう無いことなので、安心してください!」


 と言ってくれた。おかげで少し緊張が解けた気がする。

  



 そこから街を歩いて二分ほどたったころ、アリスさんが話を振ってきた。


 「そういえば、ずっと聞こうと思っていたのですが、あなたはどこかで剣術を習ったことがあるのですか?」


 「なんですか突然?」


 なぜ今、そんな問いをしてきたのかわからず、俺は聞き返してしまった。

 質問に対して質問で返すという、人によってはとても失礼と取られることをしてしまったが、アリスさんは特に気にした様子も無く答えてくれた。


 「繁華街で吸血鬼と戦った際のあなたの剣技を見てそう思いました、どう見ても素人の動きではなかったので」


 それを聞いて「ああ!」と納得した。

 彼女がそう思うのも当然だ。逃げ回って注意をそらすだけでいいと送り出した相手が、吸血鬼と正面から斬り合いをしだしたら、そりゃ驚く。

 どこかで剣を習ったのかと思うのも当然だ。


 「はい、確かに習いましたよ!道場とかそういうちゃんとした場所じゃなくて、胡散臭い詐欺師が無理矢理教えてきたものですが……」


 教えてくれたのは今朝夢で見たあの男だ。あいつはあれ以降も何かと俺に会いに来てはいろいろなことを教えてくれた。剣技や体術、あとは、真偽不明の冒険譚など。

 ちなみに、俺がアイツを詐欺師と呼んでいるのは、何も騙されて何か奪られたからというわけではない。


 アイツは会うたびに役職が変わるのだ。最初は魔術師、次は冒険家、そのまた次は宝石商などなど。―――とまあこんな具合に変わるうえ、自分の名前も名乗ろうとせず、聞けば逃げたり誤魔化したりしてくる。

 だから詐欺師と呼んでいる。


 少し脱線したが、そのことをアリスさんに教えると、剣技を習っていたという自分の勘があたったことがうれしかったのか、どこか満足そうにうなずいた。


 「やはり、そうでしたか!私がかつて居た世界にも、剣を扱う知り合いがいるのですが、その方と比べても見劣りしない。それほどあなたの剣技は美しかった。――機会があれば、その詐欺師の方にも会ってみたいものです!」


 自分の剣技をものすごく褒めちぎられ、うれしいことこの上ないが最後のだけはダメだ。この人とあの変人を会わせたくない。なので否定させてもらおう!


 「いや、大したものじゃないですよ。それに、あの変人とアリスさんは馬が合わないと思います」


 もし二人が出会うことになったら、アリスさんが苦労するのが目に見えている。アイツの真偽不明の発言に踊らされたりしそうだ。

 ――そんなことを考えていながら歩いていると、アリスさんが俺に”じ~”っとした視線を向けていることに気づいた。


 「……なんですか?アリスさん」


 「失礼、その……敬称で呼ぶのは、やめていただけないかと思いまして」


 「え?」


 「共に戦い、伯爵の手がかりを探す協力者になったのに、いつまでも敬称というのは……距離を感じてしまい嫌だな。と」


 「なるほど……」


 「ですから、私のことはぜひアリスと呼び捨てにしていただきたい」


 彼女の言うことは一理ある。しかし――――


 「無理です」


 「何故!?」


 彼女の驚愕の声が響く。

 ごめんなさい。でも、無理なものは無理なんです。だってね、俺だって男の子だもん、こんな綺麗な人を呼び捨てにするなんて、ちょっと恥ずかしいじゃん。

 しかし、そんな俺の心中がアリスさんに伝わるわけもなく、詰め寄られた。


 「な、何故無理なのですか?まさか仲間意識を持っているのは私だけだとでも!」


 動揺の声が聞こえる。見れば、彼女の顔はほんのりと赤く染まっていた。――ひょっとして、かなり勇気を出しての発言だったのか!


 「これからは私も貴方のことは晴明と呼びます!貴方もそうしてください!!」


 周りの人が歩みを止めて、こちらに視線を向けてきた。アリスさんは俺の両腕をガッチリと掴んで離そうとしない。俺は見られていることに対する恥ずかしさと、アリスさんの勢いに負けて、つい了承してしまった。


 「わ、わかりました!敬称で呼ぶのはやめるんで離してください」


 「なら、今呼んでください」

 

 無茶おっしゃる。こんな衆人環視のもとで呼べとは……。新手の拷問ですか?

 抵抗しようとしたが言うまで離してくれないみたいなので、恥ずかしさを抑えて彼女の名を呼ぶ。


 「………………ア、アリス……」


 彼女は満足そうな顔をして、「よし!」とうなずいた。


 

 ――   *   *   *   *   ――


 

 そんな他愛のない会話をしながら、吸血鬼探しを続けること約一時間。俺たちは、今は使われていないビルの中へと入っていった。


 「―――っ!」


 ビルに入った瞬間、とてつもない異臭が鼻を刺激した。

 

 ――吐き気がする。


 俺は手で口元を抑えて、隣にいるアリスへと視線を送る。

 彼女は、険しい顔でビル内を見渡していた。


 「晴明―――貴方にこれを渡しておきます」


 そう言って彼女が取り出したのは、一本の剣だ。特にこれといった装飾もない長剣。

 

 「では、参りましょう」


 俺はその声に応じ、死の気配が漂うビルを進んでいく。



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