表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『より深くへ』
7/14

手を取り合って

 それはとても暑い、ある夏の出来事。


 道行く人は大粒の汗を流しながら歩いている。空は青く澄み渡り、太陽がその全体を地上へと見せつけている。


 そんなよくある日の出来事。


 人通りの少ない路地裏には一人の少年が立っていた。

 髪は黒く、目はこの空のように青い。半袖に短パンを履いている。

 いたって普通の少年だ―――――ただし、口元をべったりと血に染めていなければ………。


 少年の目の前には、肩から大量の血を流した青年が倒れている。

 青年はピクリとも動かない、きっともう死んでいる。

 少年は死体を見下ろしていた。その顔からは感情というものがまるで読み取れない。


 そんなことを続けて数分が経過したころ、おかしな男がやってきて少年に話しかけてきた。


 「これはひどい……君がやったのか少年?」


 その男はあまりに場違いな格好をしていた。場所はもちろん時代も間違っているような気がする。

 現代日本ではあまり見かけないシルクハット、燕尾服、年季の入っていそうな長い杖。

 なんとも時代がかった格好だ。

 そして体中にごちゃごちゃと装飾が施されている。


 腰のベルトにはアンティークの懐中時計が3つほどついており、シルクハットにはパイロットがつけるようなゴーグル、首には腰まで届きそうな長いマフラー。

 ――――などなど、他にもいろいろあって上げていてはきりがない。普通こんな男がいたいけな少年に話しかけているのを見られれば、通報待ったなしの案件である。


 そんな不審者全開野郎は、少年の訝しむ心など知らんとばかりに、再び問うてきた。


 「――――もう一度聞くが、これは君がやったのか?」

 

 「……うん」


 「何故?」


 「だってこの人が、僕を売るとか言って腕を引っ張ってきたんだ……」


 「そうか―――――たしかにそれはこの人が悪い」


 そう言った男には、この状況をどこか楽しんでいるような、そんな気配を感じた。―――(いや)、実際に楽しんでいるのだろう……口元には微かな笑みが見て取れる。


 「しかし、殺すのは良いがそのやり方は良くない。見たところ、ここで転がっている青年の肩を嚙みちぎったのだろう?それはダメだ。それは人ではなくケモノのやり方だ。」


 男の言葉を、少年はよくわからなそうに首をかしげる。

 そんな少年の様子を見て、男はおもむろに言い放つ。


 「では。二度とこんな獣染みた真似ができないよう、私直々に()()()()()をかけてあげよう!」


 ここでようやく男に興味をもったのか少年は尋ねた。

 

 「あなたは誰なの?」


 「”私は『魔術師』さ!とびきり優秀な”―――ね」




 それが少年、夏村晴明が持つ、もう一つの奇妙な出会いの記憶。

 ――――そして、始めての殺人の記憶である。

 

 

 ――   *   *   *   *   ――



 俺は自分の部屋のベッドで目を覚ました。

 なにか懐かしい夢を見ていた気がするけど、思い出せない。

 寝起きでまだぼやけている目をこすりながらベッドから出るため、体を起こそうとした。


 「痛っ!!」


 ――が、痺れるような体の痛みを感じ、自分の体に巻かれた包帯に気が付く。


 (そうだ!昨日吸血鬼と戦ってたんだった)


 異形の吸血鬼、燃える街、大量の死体、そしていっしょに戦った女魔術師。

 体の痛みが合図となって、昨日の出来事を次々と鮮明に思い出した。

 

 しかし、あの後アリスさんと話してからの記憶がない。


 


 (そういえば、俺ってどうやって家まで帰ってきたんだろう?)


 疑問に思うが、未だ覚醒しきっていない自分の頭ではこれ以上考えられず、まだ布団で寝ていたい欲求を抑えて洗面所へと足を運び、扉を開ける。

 

 「――え?」


 「あ………」

 

 するとそこには、風呂上がりと思しきアリスさんがいた。裸で。


 「すみませんっ!!」


 仮に扉を閉める速度を競う大会があったなら、優勝間違いなしの早業をもって扉を閉めた。



 ――   *   *   *   *   ――


 

 その後、俺とアリスさんはリビングでテーブルを挟み、向かい合っていた。アリスさんは両手を合わせて謝罪した。


 「申し訳ない、起きてるとは思わず。―――汚れがひどかったから お風呂をお借りしました」

 

 「それはいいんですけど……なんで俺んちにいるんですか?」


 「覚えていませんか?あの後、貴方が『近くに俺の住むアパートがあるのでつれてってください』と言うので運んだのですが――家に着くなり貴方が気絶して、傷の治療もしないとですからから泊まらせていただきました!」


 言われてようやく思い出してきた。確かにそんなこと言った気がする・・・・ていうことはこの包帯もアリスさんが巻いてくれたのか。


 「ありがとうございます!助かりました」


 「助かったのはこちらです。貴方が助けに来てくれなかったら私はあそこで死んでいた」


 互いに笑みを浮かべて感謝を伝える。少し恥ずかしいけど、この時間はなにより大切なものに思えた。




 ――――それはそうと


 「アリスさん。ちょうどいい機会ですし、教えてください。――アリスさんが追っている魔術師について]



 ――   *   *   *   *   ――



 「私が追っている魔術師は、一言でいうなら”奇跡的な技術(わざ)をもった狂人”ですね。本名かは、わかりかねますが、彼は自身で『サンジェルマン伯爵』と、そう名乗っていました。」


 「!?]


 「あなたも名前くらいは知っているのではないですか?」



 ―――アリスさんの言う通り、俺はその名前を知っている。彼は、オカルト好きの間ではちょっとした有名人だ。


 18世紀のヨーロッパ宮廷に出没したと言われている彼は、数多くの言語や音楽、錬金術に通じ、不死伝説や怪奇な噂で知られ、宝石を修復する技術を持っていたといわれている。

 数百年前の出来事をまるで見てきたように話し、100歳を越えてなお若々しい見た目を保っていたりしたそうだ。

 彼の死後も、彼を目撃したという証言が複数あげられたことから、不死の薬を持つとも噂されていた。


 そんな彼の正体は未だ不明で、様々な憶測がある。

 曰く、タイムトラベラー。不老不死の薬を作った錬金術師。大ぼら吹きの詐欺師。本当は存在しない架空の人物。

 そして―――吸血鬼。



 話している内に怒りを思い出したように、アリスさんはそのきれいな顔をゆがませ、吐き捨てた。

 

 「――私は、ヤツを見つけ出して、この手で殺してやりたい」

 

 その言葉には確かな決意と殺意がこもっていたように思う。

 俺はそんな彼女の決意を感じながら、当然の疑問を口にした。


 「なんで……そんなに殺したいんですか?」


 「…昔、まだ私が幼かった頃、殺されたんです。私の家族が……全員。だからヤツを追って、私はこの世界に来ました」

  

 彼女は床に視線を落としながら、消え入りそうな声でそう答えた。


 「まあ、そう息巻いたはいいものの、実は諦めかけてたんですけど……」


 「え!そうなんですか!?」


 「ええ。サンジェルマンを追ってこの世界に来ましたが、いまだに会うことすらできず。助けてくれる人もいなくて、寂しくて、あきらめる寸前でした―――だから、昨日あなたが助けに来てくれてうれしかった!本当に、ありがとう」


 アリスさんは顔をほころばせ、頬をほんのりと赤く染めながら俺に感謝を伝えてくれた。

 反則だと思う。そんな顔されたらこっちだってうれしくて、つい赤面してしまう。




 その後二秒ほど間を置いて、アリスさんは「よしっ!」と、ちょっと暗くなった空気を変えるように、手をたたいた。

 そうしておもむろに立ち上がると、


 「改めてお願いしよう!私に協力していただけますか?」


 いつかの助けてもらったときのように、彼女は堂々とした笑みを浮かべて右手を差し出した。


 「もちろん!協力させてもらいます!」

 

 答えは決まっている。

 俺は力強くその手を掴みとった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ