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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第一章 『異常の始まり』
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異常な日常へようこそ! その4

 晴明は騒ぎの中心に近づくにつれて、真っ青になっていった。建物は崩れ、周囲には瓦礫が散乱している。途中で自転車から降りて自分の足で走りだした。

 その後しばらく走り続けていくつかの道を曲がると、大通りに出る。


 そこには割れた地面、燃え盛る炎、大量の死体、そして――――首を絞めつけられ、今にも死にそうな顔をしたアリスの姿があった。


 「っ、その人を離せえぇぇぇー!」


 晴明は沸き上がる怒りに身を任せ、近くにあった瓦礫を怪物めがけてぶん投げた。



 ――   *   *   *   *   ――



 怪物の力緩んだ隙にアリスさんは触手から抜け出し、俺の方へ駆け寄ってくる。


 「あなたは、なぜこんなところにいるのですか!?」


 「仕方ないでしょう。居てもたってもいられなかったんだ!」 


 「居てもたってもって……」


 アリスさんの質問に俺は怒りながら返した。


 彼女は俺を見て頭がどうかしてしまったと思っているだろう、俺もそう思う。死ぬのが嫌で誘いを断ったのに今ではこんなにも死の気配が漂う場所に来てしまっている。


 「おれは死ぬのが嫌だ。けど、助けてもらった恩を返せないままでいるのも嫌なんです!」


 俺の発言を聞いたアリスさんは呆気にとられたような顔をして、笑った。


 「―――ふふ、ははははははは!」


 さっきまで死にかけてたのが嘘のようだ。

 ――――なんかちょっと恥ずかしい。

 しかし言ってしまったものはしょうがない気持ちを切り替えて目の前の怪物に視線を戻す。


 「アリスさん、あれも吸血鬼なんですか?」


 「ええ、その通りです」


 アリスさんも切り替えて俺の疑問に即答した。


 「……今はあんな姿ですが、あれも元人間です」


 一瞬迷ったそぶりを見せ、アリスさんはそう言った。


 「――――、わかりました」


 おれはただうなずく。

 彼女が迷ったのは、人殺しをしたくないと言った俺のことを心配してくれたからだろう、戦いにおいて迷いや躊躇は”死”を意味する。


 「大丈夫です。こうしてここに来た以上覚悟はしています」


 だから心配しないでください。―――と、そう告げた。


 「……承知しました。―――――見た限り、やつの注意は今あなたに向いている。なんとか時間を稼いでいただけますか?」


 「いいですけど、アリスさんはどうするんですか?」


 「あと5……いや、3分ほどすれば乱された魔力が元に戻る。そうしたらヤツにでかい一撃を叩き込む。それまで粘り続けてほしい!」


 「わかりました。では、行きます」



 ――   *   *   *   *   ――



 おれはまず怪物の足元に落ちている剣のところまで走った。


 『やつの足元には私の剣がある。拾えるようなら使ってくれ、気休めくらいにはなるだろう』


 走り出す前にそう言われたので、ありがたく使わせてもらおう。

 おれは怪物の股下をスライディングして剣を取った。


 剣を構えて、フーっと息を吐く。


 (アリスさんと話したおかげで、少し冷静になれた)


 呼吸を整えて覚悟を決める。

 誰かにやれと言われたからじゃない、場の雰囲気に流されてもいない、

 

 ”おれは自分の意志で――――「お前を殺す!」”


 淡々と、しかし決意のこもった言葉を目の前にいる敵へとぶつける。





 直後。


 「キアアアアアアアアアアア」


 ―――――と怪物は奇声を発し、後方へと飛び退いた。

 晴明の言葉を理解したわけでも、晴明が持つ武器を警戒したわけでもない。

 怪物が飛び退いたのは、本能から来る直感によるものだ。

 晴明から放たれる”殺気”、それを正確に感じ取る。


 そして、怪物の肉体は突如として変異した。

 胴体から足にかけては固い殻に覆われ、左の触手は先端が針のように尖りだす。そして右の触手は(たば)になり、晴明が持つ武器を真似るように鋭い剣へと変わる―――それもかなり大きい。


 互いに向き合ったまま動かない。


 空間を静寂が支配する。


 ――そして、今から始まるのは互いの命を懸けた殺し合いだ。





 最初に動いたのは怪物だ。触手の先端を針のように尖らせ、俺めがけて伸ばしてくる。俺は右に走ることで回避した。触手は地面に突き刺さる。

 すると、やつは伸縮を利用してとてつもない速度で俺に近づいて右の大剣を振り下ろし、真っ二つにしようとする。

 おれは剣をななめに構えることで怪物の一撃を受け流し、その勢いのまま化け物の胴体をぶった斬った。


 「ガアアア!」 


 怪物は苦悶の声を上げる。

 俺は飛び散った血を顔面に浴びながら再度斬りかかった。



 ――   *   *   *   *   ――


 

 アリスはその光景を見て愕然とした。

 それは仕方のないことだろう、何とか生き延びてくれと送り出した少年が吸血鬼―――――それも改造された吸血鬼――――を相手に接戦を繰り広げているのだから。


 (……いや、むしろ押してる?)


 相手に斬撃を見舞い、いったん離れる。ヒットアンドアウェイを繰り返して、相手の態勢が崩れたら一気に連続斬撃をあびせる。 

 左の触手、頭部、喉、大剣の接合部。次々に斬りかかった。

 吸血鬼は晴明の動きに完全に翻弄されている。

 

 「―――!、まずい!!」


 ”なんかこのまま倒せそう”―――そう思った矢先、それは起こった。





 (なんだ?急に反撃がなくなった)


 先程までの威圧感はどこへやら、怪物はまるで怯える子供のようにその巨躯を丸めていた。

 それをチャンスと思い、斬りかかったのがまずかった。

 言われた通り時間稼ぎにだけ集中していれば、こんな無様はさらさず、もう少し格好がついただろう。

 

 それは調子に乗った罰とばかりに晴明の身を襲った。


 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 怪物は咆哮した。

 全身から魔力による衝撃波が発散される。

 アリスがそのことに気づいて警告をするが遅い、晴明の体はなんの抵抗もできずに吹き飛び、背後にあった建物へ激突する。


 「夏村くんっ!」


 アリスは慌てて少年の名を呼ぶが、少年は動かない、今ので気絶したのだ。むしろ、あんな速度で壁にぶつかって生きているだけ奇跡だろう。

 アリスは自身を助けてくれた少年のもとへ駆け寄ろうとするが、そこで気づく。


 (!……魔力が回復した)



 ――   *   *   *   *   ――

 


 怪物は晴明を殺すために前へと進む。しかし2,3歩進んだところで歩みを止めてしまう。

 背後から、無視できない魔力の高まりを感じたのだ。

 

 (気づかれた!しかし――)


 もう遅い。

 アリスは右腕を左手で抑えて、怪物めがけて照準を合わせる。

 彼女からは、先程の怪物の咆哮とは比べ物にならないほどの魔力が練り上げられる。

 彼女から発せられる魔力は空気を震わせ、大地をえぐる。

  

 吸血鬼は、例の魔力を乱す叫びを放とうとするができない。晴明との戦いで喉にあたる部位を斬られてしまったからだ。

 そしてそれが致命的なタイムロスとなり、アリスの準備が完了してしまう。

 

 「これで、終わりだ!」


 アリスの言葉と同時にそれは放たれた。

 それは魔術などではなく、ただ手のひらに魔力を込めて発射するだけの極めて原始的な攻撃。

 しかしそれゆえに、この怪物にとっては最大の威力を発揮した。


 「!」


 回避しようとするが、足に刀が突き刺さり失敗する。

 見れば、晴明が気絶から目を覚ましていた。


 「―――ごめんなさい」


 晴明は怪物を見つめてただそう呟き、怪物は黙ってその光を受け入れた。 



 ――   *   *   *   *   ――



 「夏村くん、無事ですか?」


 アリスさんはそう言って俺のもとまで走ってきた。


 「大丈夫です。体中が痛くて動かせないだです」


 「それを無事とはいわない!」


 (ごもっとも)

 

 「………」


 「………」


 「アリスさん」


 少しの静寂の後、意を決してアリスさんに話しかけた。


 「俺、協力します。魔術師探し」


 「いいのですか!?」


 「はい。今回みたいなことがこれからも起こり続けるなら、それを見過したくない。それに……いえ、とにかく協力させてください」


 ”あなたが心配だから”というセリフは恥ずかしいから言うのを止めた。

 そんな俺の考えに気づいたのかはわからないが、彼女はそのきれいな顔に笑みを浮かべていた。


 「フフッ、よろしくお願いしますよ。これから……」


 「はい。お願いします」




 お互いぼろぼろ。

 とても勝利を喜べる状況ではなかったが、生き残れたこと、助けられたことがただうれしかった。


 



今回で亡くなった改造吸血鬼は、もともとはこの世界で普通に生きていた一般人です。

吸血鬼にされた後、対アリスように改造されました。

魔術無効化能力というでたらめなものを付与するのはとても大変なのでそう簡単には作れません。

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