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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第一章 『異常の始まり』
2/15

異常な日常へようこそ!

 昼休みを知らせるチャイムが鳴る。

 昼休みになると、多くの生徒が一か所に集まりだす。


 「エルザさん!一緒にご飯食べない?」


 と謎の転校生エルザ・アンダーソンさんに話しかける。


 「私でよければ」


 エルザさんが驚きながら恥ずかしそうに答えると、皆は机をくっつけ始めた。その中には和人やアリスさんの姿もあり、「晴明も一緒に食おうぜ!」と誘われ、俺も輪の中に入った。


 このクラスは他と比べてもクラスメイトの中は良いほうだと思う。彼女がすぐ馴染めるようにこうして食事に誘ったり、いろいろ聞いたりしている。

 俺もそれに混ざってそれとなく昨夜のこと聞いてみたが、エルザさんは昨夜は一歩も外に出ていないとのことだ。

  

 (やっぱり昨日見たものは、俺の勘違いだったぽいなぁ)


 考えてみれば、赤い髪の女性なんていくらでもいるか。

 俺は昨夜のことは見間違いでとりあえず結論付けて一安心する。


 「あの、夏村さん」


 自分の名前を呼ばれたので、考え事を中止して聞き返す。


 「なんですか?エルザさん」


 「今日の放課後、学校についていろいろ教えてほしいんですけど、いいでしょうか?先生より同級生のほうが聞きやすいので。」


 「?…いいですよ」


 なんで俺なのか疑問はあるが、特に断る理由がなかったので了承の返事をした。

 

 「美人転校生と放課後デートか?うらやましいなこのこの~!」


 隣で聞いていた和人がからかってくる


 「うるさい。会話に入ってくんな!」


 そんなやりとりを、アリスさんは真剣な眼差しでみつめていた。

 


 ――   *   *   *   *   ――



 帰りのHR(ホームルーム)も終わり、約束通りエルザさんに学校の案内をする。体育館、職員室、保健室。とりあえず覚えていないと後々困りそうなところを案内して、1時間ほど時間をかけて学校全体の案内を終えた。


 時刻は6時頃。

 夕日は完全に沈み、校舎にはほとんど人がいなくなっていた。


 「ありがとうございます。私のわがままに付き合ってくれて」


 「いえ全然、こっちこそ時間をかけちゃってすみません。もう帰りましょうか外も暗いですし」

 

 二人で一緒に校舎を出る。帰る方向が同じとうことで自然とこうなった。女子と二人きりという状況に俺はドキドキしながら夜道を歩いていた。

 特に何か会話をするわけではなく、静かな時間が続いていた。しかし、この時間は2分とたたず終わりを告げる。俺が沈黙に耐えられずに話し始めたからだ。

 

 「帰る方向同じみたいだけど、エルザさんはどの辺に住んでるの?」


 「割とすぐ近くですよ。歩いて20分ぐらいです」


 「へぇー!じゃあ俺の家からも近いのかな。俺もだいたい学校までそのくらいなんだよ」


 そんな会話をしながら歩いていると、例の公園のところまできていた。俺は昨日のことを思い出してブンブンと頭を振る。


 (昨日のあれは勘違いだ。変なこと考えるな!おれ!)


 無意識に早歩きになるが、エルザさんが公園の前で足を止めたことに気付いて俺も足を止めた。


 「どうしたのエルザさん?」


 「そういえば、夏村さん今日変なことを聞いてきましたよね。昨夜は家の外に出たかって」


 こっちの問いを無視して話し続ける。


 「なんでそんなことを聞くのかな?って思いました。だって初対面ですよ。普通はこっちにきてどれくらいなの?みたいな質問をしますよね。――それで気付いたんです。”ひょっとしてこの人なんじゃないかな?公園でのことを目撃したのは”って」


 「いや何言ってるの?公園でのことなんて…」


 ”知らない”と言おうとしたがその言葉が途中で止まる。彼女から発せられる威圧感が俺の下手くそなごまかしを許さない。


 再び沈黙の時間が流れ出す。

 ここで返答を間違えればまずいことになる。その事実だけを本能的に理解し、どう答えるかを考えるが、なにも浮かばない。


 彼女は、「はぁ、もういいよ」と、心底どうでもよさそうに口にする。

 その発言にびくっと身構えた瞬間、


 ()()()()()()()()


 「っがぁあああああぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!?」


 一瞬何が起きたのか理解できなかったが、右腕がなくなっていることに気付いて遅れて痛みがやってくる。


 ――痛い。痛い。痛い。イタイ。


 もはや痛いしか考えられなくなり、ただ叫び続け地面に倒れる。


 「ごめんね、でも仕方ないんだ。夏村くんが目撃さえしなければ、こうはならなかったんだよ」


 彼女の言っていることがわからない。


 ”痛い“ ”なんで?” ”痛い” ”ふざけるな!” ”痛い”。


 吹き飛ばされた右腕から、火であぶられたような猛烈な痛みがする。

 その後、痛みと一緒にやってくる思考は彼女に対する疑問と怒り。そして、逃げなきゃ死ぬということ。


 痛みを必死にこらえて彼女がいる方向とは真逆の方向に走り出す。

 痛みで頭がおかしくなりそうになる中、震える足を全力で動かし、後ろの化け物からひたすら逃げる。しかし、それも長くは続かなかった。


 とうとう力尽きて地面に倒れると、後ろのほうからあの女がやってきた。


 (…もう無理だ。助からない。ちくしょう……)


 「鬼ごっこはもう終わり?」と今日一番の笑顔を向けてくる。


 (何が楽しいんだ!)


 悪あがきに罵詈雑言をぶつけてやりたいが、もう体に力が入らない。


 「じゃあ、殺すね」


 女が邪悪な笑みを浮かべながら腕を高く上げる。すると女の爪が獣のように鋭くなり、目は血のように赤く輝く。

 俺はそれを見て、まるで吸血鬼のようだと思った。

 意識が薄れ、避ける体力も無い。


 (あれに切り裂かれて死ぬのか…)


 もう逃げられないと悟り、俺は瞼を閉じた。

 

 「……」


 しかし、とどめを刺される気配が一向にない。”焦らして遊んでんのか”と彼女に対する怒りが再び沸き上がり始めたところ。


 「……夏村」

 

 ――と自分を呼ぶ声が聞こえた。


 聞き覚えのあるその声に、半ば反射的に顔を上げる。そして声の正体に愕然とした。


 「アリス、さん?」


 なんでこんなところに!?


 疑問と焦りが頭の中を支配した。


 「お前は!!」


 その声にハッとし、考えるのをやめて叫ぶ。


 「逃げてっ!速く!!」


 まだ叫ぶ体力があることに驚きつつ、(最悪だ……)と心の中で呟いた。

 アリスさんは動かない。後ろの女も。


 「ぐっぞぉ!」


 なぜ後ろの女は動かないのか、本日何度目かもしれない疑問を頭に浮かべながら、この状況を何とかしようと必死に体を動かそうとする。しかし、動かない。先ほど顔を上げて叫んだのが本当に最後の力だったようだ。


 「―――ごめん」


 アリスさんの呟きを耳にし、再び視線をアリスさんへと向ける。

 彼女は右腕を胸の高さにまで上げていた。


 「今助けるから」


 言葉と同時、彼女の手の平から炎が出現し、俺の頭上めがけて発射される。


 「あぁああああぁぁ!!」


 後ろから叫び声が聞こえて振り返ると――

 先程まで邪悪な笑みを浮かべていた女が、炎に焼かれ、(もだ)え苦しんでいた。

 まとわりつく炎を消そうと壁や地面に体をぶつけるが消えない。むしろ、炎はより勢いを増して燃え上がる。


 「な、んで……消えないぃ?」


 やがで炎は彼女の全身を包み込む。エルザ・アンダーソンの体は、彼女を焼いていた炎と一緒に跡形もなく消滅した。



 ――   *   *   *   *   ――



 完全に焼け死んだのを見届けると、アリスさんは一枚の古そうな紙を取り出して、紙を俺の体の上に乗せた。


  すると、1枚の紙が緑色に輝き、吹き飛んだはずの右腕が見事に再生した。痛みは無い。さっきまで感じていた疲労も一緒に消えた気がする。


 アリスさんは、腕が治ったのを確認すると「おほん!」とわざとらしく咳ばらいをし、堂々とした笑みを浮かべて、そう名乗った。


 「色々聞きたいことがあるでしょうが、あらためて自己紹介をさせてもらおう」


 「私の名前は、アリス・エインズワース。異世界からこの日本に転移してきた、しがない”魔術師”だ」


 

  




 ”後から振り返ればこの出来事がきっかけだった。ここから、この異常が俺の日常に変わっていく。”







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