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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『より深くへ』
14/14

幕間

 視界が開く。

 僕が覚えている最も古い記憶は幼少期の頃のそれだった。


 目の前には白衣を着た大人がちらほら。何か話していたけど、まだ言葉すら知らなかった僕では理解できない。

 

 「成功だ……」


 「本当に魔力を帯びている!――はは、ようやくだ。何度も実験を重ねてようやく完成した」


 「これで……我々の願いに大きく近づいた」


 あたりを軽く見まわす。コンクリートの壁、喜ぶ大人、床にはやたら太いパイプ、溶液の入った大きな試験管、開けっ放しの扉―――そして、扉の向こうには僕と同じ顔のお人形がいくつも重なっている。

 いや、正確にはお人形ではないのだろう。しかし、当時の僕はそう思わないと気が狂いそうだった。


 ――だってそうだろ?


 お人形じゃないなら、あれは大量の死体ということになる。

 

 僕と全く同じ顔。けれど成功作(ぼく)になれなかった失敗作(ぼくたち)が、虚ろな瞳で見つめてくる。


 その目は一体何を訴えていたのだろう、さすがにそれはわからない。

 けれど一つだけ、生まれて間もなく感じた直感は、今も忘れることなく覚えている。



 ”僕は生まれるべきではなかったのだ”



 ――   *   *   *   *   ――


 

 晴明たちと教会が同盟を結んだのと同時刻。


 「こんな辛気臭いところに呼び出して、いったい何のようかな?」


 現在マラドーナたちがいる場所は路地裏だ。周囲には十人ほどの大人がマラドーナたちを挟むようにして立っている。彼らは皆、ヘルメットに防護服、手には小銃を持っており、これから戦いに向かうような格好をしている。


 「マラドーナ、上からの命令だ。今すぐこの街から撤収しろ」


 「何故?」


 「状況が変わった。先日のお前と『亡骸の王』との戦いを経て、吸血鬼と事を構えるのは良くないと上は判断した。これ以上やつらを刺激して標的にされれば機関は壊滅しかねない」


 武装した者の内の一人、彼らの隊長と思しき人物は一歩前に出て、マラドーナに通達をする。


 「……オーケー、理解したよ。けど少し待ってくれないかな、僕はこの街でやらなきゃいけないことが見つかったんだ。それが終わったらすぐに戻るから――」


 「マラドーナ……上からは、お前がごねるようなら力づくで連れ出せとも言われている――この意味が分かるな?」


 軽薄に笑いながら言うマラドーナの話を、男は怒気のある声で遮る。それと同時に周囲を塞いでいた連中が、マラドーナたちに向けて銃口を突き付けた。


 「最後にもう一度言うぞ、今すぐこの街から撤収しろ。――さもなくば、力ずくで連行することになる」


 そう警告する男の声は、少し弾んでいるような印象を受ける。まるで、生意気なガキをいじめる容赦のない子供(おとな)のよう……。


 「嫌だ。僕はこの街に残らせてもらうよ」


 マラドーナの返答に、男は答えが分かりきっていたようにすぐさま号令を放つ。


 「やれ」


 飛ぶ血しぶき。喉が張り裂けるのではないかと思えるほどの大きな叫び声。しかし、それらはマラドーナから発せられたものではない。凜太郎でもミシェルでもない。

 それらはすべて、今まさにマラドーナを撃とうとした連中から発せられている。


 連中は突然苦しみだし、血を吐いて地面に倒れてしまった。


 「なっ!………んだ……!?マラドーナ、テメェ俺の部下に何しやがった?」


 男は目の前で起こった現象が理解できず、激しく動揺する。

 そんな彼の問いにマラドーナは「いいや、僕は何もやっていないよ」と、場にそぐわないほどの満面の笑みを向けて答える。


 男は思う。そんなわけあるか、と。

 こんなふざけたことは、何かしらの魔術を使ったに決まっている。そうでないと説明できない。

 男はマラドーナが魔術を使えることを知っていたし、そんな相手でも確実に制圧できるように完全武装をしてやってきた。


 なのに何だこの状況は?


 何故マラドーナではなく我々が負傷している?


 男の動揺を歯牙にもかけず、マラドーナは話し続ける。


 「――ついでに言うと、これは魔術じゃない。『呪い』だよ」


 「……呪い?」


 男は動揺しながらも、なんとかその単語を聞き取る。しかし『呪い』とは一体なんなのかがわからない。

 魔術とは違うものなのか、マラドーナが新しく開発した技なのか……それすらも理解できない。


 「ミシェルは『悪魔憑き』だからね。『呪い』を使えるんだよ―――ひょっとして上から聞いてない?」


 言われて男は思い出す。マラドーナを連れ出すよう指示を受けた際、ミシェルについても聞かされた気がする。

 しかし、男はマラドーナ以外はたいしたことないと考えていたため、その話を真面目に聞いていなかった。


 「まあ、どうでもいいか!どうせ殺すことに変わりないんだし」


 男は急いで逃げようとするが失敗する。目の間にはマラドーナ後ろは高い壁、逃げ場がない。


 「マッ……マラドーナあああああああああああああ!!」


 半狂乱になって銃を乱射する。が、効かない。マラドーナはただ立っているだけだというのに、その体はまるで鋼鉄のように銃弾を弾く。


 「くそっ……くそぉ!?」


 何かがおかしい。

 

 こんなはずじゃなかった。


 マラドーナはいつも生意気で嫌われている。けれど、魔力(ちから)があるから誰も強く出れない。男もそんな奴らの内の一人だ。

 マラドーナのせいで、いつも男は苛立っていた。


 今回の指令はそんな生意気なクソガキをぶちのめして、お前は所詮モルモットなんだと自分の立場をわからせてやれる。そう考えていた。


 だというのに、マラドーナは無傷で男は恐怖で震えている。


 「―――!お前ら!こいつらを殺せぇ!!」


 途中で、部下がまだ生きていることに気づいて命令を飛ばす。

 男の部下たちも同様、マラドーナを(うと)ましく思っているのですぐさまマラドーナに襲いかかった。


 しかし、凜太郎に邪魔される。


 「お……お前は()()()()()()邪魔すんじゃねえ!!」


 「あいにく、私はマラドーナ様の護衛ですので……」


 凜太郎はそう言いながら、迫ってくる連中を斬り倒していく。


 男はこの状況をどうにかしようとひたすら頭を回すが、それはもう無意味だ。男の目の前にはマラドーナがたたずんでいる。


 「君たちが僕のことを嫌っているのは知ってたよ……けど、そっちが手を出してこない限り僕も君たちをどうこうしようとは思わなかった。――残念だったね」


 マラドーナの拳が男の顔面にヒットする。男はまるで、つぶれたトマトのようだ。


 




 「――そういえば、あなたがこの街でやらなきゃけないことというのは、一体何なんですか?」


 事が済んだ後、凜太郎はマラドーナに尋ねる。


 「例の……夏村晴明に関してですか?」


 「それはもちろん。彼とは友達になれそうだ」


 マラドーナの答えに凜太郎は、はぁとため息を吐いた。また面倒くさいことになると思ったのだろう。そして――


 「――けど、あともう一つ。『来訪者』……アリス・エインズワースをぶっ飛ばしたいんだ!」

 

 と、さっきまでの軽薄な態度から一転、マラドーナは真面目な顔つきでそう言った。


 「……確かに、()()()()()()()()()()

  

 凜太郎は、マラドーナの答えにどこか納得したようにうなずく。

 

 そんな会話をしながら路地裏を後にした三人は、不穏な気配をまとわせ、夜の街を歩いていくのだった。

 



 こうして機関の手から離れた怪物たちが、また新たな戦いを引き起こす。




一応解説

『魔術』と『錬金術』と『呪い』について


『魔術』:魔力を用いて炎や水といったものを、なにも無いところから生み出すこと

『錬金術』:魔力を用いて石を宝石を変えたり、建物の形を変えたりといった、すでにあるものを歪めること(これを極めると、人間を不死にできたりする)

『呪い』:悪魔が使う、魔術や錬金術とは違う別の何か。詳細は機関でも知らない。

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