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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『より深くへ』
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戦いの後の団欒

 太陽が照り付ける昼頃、雑多にビルが立ち並ぶ街の道端を、とある三人組が歩いている。


 「マラドーナ様、楽しそうですね」


 「わかるかい、ちょっとおもしろいことがあってね!」


 そう、マラドーナとそのお供たちだ。

 彼らは、昨夜廃ビルにて晴明たちと戦った後、一度拠点に戻り今はこうして三人で出歩いていた。


 「”おもしろいこと”というのは、昨夜戦った『来訪者』たちのことですか?」


 「そうだよ!よくわかったね」


 笑顔で肯定するマラドーナにメガネの男、星宮凛太郎ほしみやりんたろうは、こめかみをおさえて、ため息をついた。


 「確かに、あの『来訪者』はあなたの興味を引くものかもしれませんが、勝手な行動は控えてください」


 「随分厳しいな……さてはストレス?――だめだよ凜太郎、ちゃんと息抜きしないと……ていうか、そんな真面目ぶってるからストレスたまるんだよ。君は本来、もっと乱暴な性格なんだから」


 「ストレスの原因に言われたくねえんだよ!この前も勝手に行動しやがって!!護衛であるこっちの身にもなれや!!!」


 「ははは、やっぱり乱暴だ」


 ストレスの原因(マラドーナ)の言い分に怒りが頂点に達したのか、街中だというのに凜太郎は大声で怒鳴りだす。

 しかし、悲しいことにその怒りは、マラドーナにはたいして届かなかったようだ。


 


 そんな彼の様子を見て、さらに怒りが沸いてきた凜太郎はもっと文句を言おうと足を踏み出す。が、それはマラドーナの言葉によって遮られた。


 「―――それに、僕が面白いと言ったのは『来訪者』もそうだけど、彼女の横にいた男の子の方だよ」


 「どういうことです?」


 凜太郎は訝し気に尋ねる。


 「彼、夏村晴明っていうんだけど、初めて会った時から変わった気配してるな~って思ってたんだよね!」


 要領を得ないマラドーナの話に、今まで黙っていたミシェルと呼ばれる女は、おもむろに呟いた。


 「……晴明」

 

 「どうしましたミシェル?」


 普段あまりしゃべらない同僚が、突然呟いたことに少し驚きながら訪ねるが、ミシェルは「何でもない……」と言ってまた黙り込んでしまった。

 マラドーナは構わず話を続ける。


 「――で、ちょっと気になって、機関の実験体リストを調べたら……ほら!」


 マラドーナはスマホの画面を凜太郎たちに向ける。そこには組織が誘拐し、人体実験を施した人物の名前が記されていた。

 画面をスライドし、ある名前を指さす。




 『魔獣融合実験被検体リスト  No:17夏村明なつむらあきら




 「ね。面白いだろ!」


 そう言って、スマホからひょこっと顔を出すマラドーナは、やはり楽しそうな顔をしていた。


 「どこが。これだけじゃ、この名前とその少年に繋がりがあるとは言えませんよ」


 「うん。そこは追々詳しく調べるとして……自分の勘が当たったかもと思うと楽しいんだよ、しょうがないだろう」


 凜太郎はまた、ため息をつく。もう何を言っても無駄だと思ったのだ。


 「それで、今どこに向かってるの?」


 話し合いがひと段落し空白が生まれる。そこで、ミシェルがマラドーナに問いただした。


 「僕たちがこの街に来た、本来の目的を探りに」


 マラドーナはそれだけ言って、歩みを再開させた。



 ――   *   *   *   *   ――



 昨夜の戦いから土、日を挟んで月曜日。本日も晴明は学校に来ていた。

 休みを挟んだとはいえ、疲れは完全に抜けきれない。それも当然だろう、なにしろ、ここ一週間の出来事は、晴明の今までの生活とかけ離れすぎているのだから。

 だというのに、こんな律儀に学校に来ているのは、何も彼がドが付くほどの真面目生徒だからでは無い。

 何を隠そう、彼が真面目に学校に通う理由(わけ)は、親に怒られるのが怖い、ただそれだけだ。


 晴明は現在一人暮らしをしている。が、それは別に、両親が早くも亡くなったとか、そんな悲しい理由からではない。――両親は今も実家で元気にしている。

 

 彼が一人暮らしをしているのは、高校に上がると同時に、一人暮らしをさせてもらえるよう、親に頼み込んだからだ。

 

 理由はいくつかある。

 まず一つ、単純に一人暮らしに憧れていたから。

 二つ目は、母親が怖かったから。普段は温厚なのに、否、温厚だから一度怒ると超怖い。

 一人暮らしをしたいと言った時も、かなり反対された。そして、艱難辛苦かんなんしんくの末、父親に協力してもらい、厳しい条件のもと、なんとか一人暮らしの許可を得ることに成功したのだ。


 で、その条件の一つは学校には毎日通うこと。

 もちろん病気などでどうしても行けない場合は仕方ないが、もし、さぼったりしようものなら、そのことが学校から親へ伝わり、実家に強制連行。晴明の楽しい一人暮らしライフは終わりを迎えるだろう。

 

 故に晴明は疲れた体に鞭を打って、学校に来ていた。




 「きつい――…」

 

 教室の隅、俺は自分の机に片肘をついて独り言を漏らす。外を見れば、太陽が顔を出し爛々と輝きを放っていた。

 俺はこんなにも疲れているというのに、空は、そんなことお構い無しだ。それがまた、より一層自分を憂鬱にさせる。


 「今日も相変わらずだな、晴明。もっと学生らしく元気だしたらどうだ?」


 と、横からお馴染みの声が聞こえる。和人はまたも俺の隣にやってきては、お母さんみたいなこと言ってきた。

 ――前から思ってたけど、なんでこいつは休み時間のたびに俺のところに来るのだろう。ひょっとして暇なのか?こんな、ザ・陽キャみたいな(ツラ)して……


 「にしても本当に大丈夫か?なんかお前、ここ最近毎日疲れ果てた顔してるぞ」


 「ああ、最近忙しいからな」


 別に何もないと誤魔化すこともできたが、ちょっと愚痴りたかったためそう口にした。


 「へえ~、忙しいってなにが?」


 「昨日……いろいろあってな」


 うっかり昨夜のことを話してしまいそうになったことに、途中で気づいて修正することに成功した。……あぶねえ。


 ――と、そこで和人は俺が話す気がないことに気づいたのか、別の話題を持ってきた。


 「なんだ。俺はてっきり、雨音(あまね)に会えなくて元気がないのかと思ったんだけどなー!」


 「なんでだよ」


 「だってお前と雨音って仲良かったじゃん。高校が別になってから一度も会ってねえし、悲しんでるのかと思ったんだよ」


 「ないよそんなこと」


 天音というのは俺が中学の頃の同級生で女友達だ。ちょっとした事で知り合い、それ以降、和人と三人でよくつるんでいた。そして、俺らと彼女は別の高校へ進学し、今になるまで会うどころか一度も連絡を取っていない。


 ――まあ、今時中学の頃の友人関係が、高校まで続いているという方がめずらしい。なにせ、同じ高校でも、クラスが変わるだけで話すことが無くなるくらいだ。

 連絡がないということは、その必要がないくらい向こうで楽しんでいるということだろう。少し寂しくはあるが、それはそれ。これはこれだ。


 「へぇ~」

 

 和人はニヤつきながら返事をする。そして何かを思い出したように話しかけてきた。


 「――あ、そうだ。晴明、最近この街で囁かれてる妙な噂、聞いたことあるか?」


 「噂?」


 「そっ!俺も聞いただけだから、実際に見たわけじゃねぇんだけど――」


 和人は、どこか楽しそうにしながら、その噂を口にした。

 今の俺には、どうしても聞き流せない。そんな、物騒な噂を。




 「『尾沢マンションの吸血鬼』ってのがあるんだよ!」



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