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夏村晴明の非日常  作者: 空き缶
第二章 『より深くへ』
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異世界機関

 「さすがだね!『来訪者] 』、魔術も使わず吸血鬼を圧倒するなんて……」


 少年は笑顔を向けて話しかけてきた。まるで、旧知の仲のように、フレンドリーに、――もしもクラスにこんな子がいたら、すぐに仲よくなれそうだと思える。

 出会った場所がこんな血なまぐさい地下室でなければの話だが……。


 「とりあえず初めまして、僕の名前は”マラドーナ”……よろしく」


 「――先程、魔力を飛ばしてきましたね?あなたは、伯爵の手下ですか!?」


 マラドーナと名乗る少年が話し終えると、アリスが疑問を投げかける。

 その声には明らかに敵意がこもっていた。


 「いいや、違う。僕は”機関”の使い走りだよ。これだけ言えばわかるだろ?」


 「………」


 アリスはただ黙って相手を睨み続ける。


 ……誰か状況を説明してほしい。いきなり出てきたと思ったら二人だけで会話を始められてこっちは完全に置いてけぼりだ。

 

 「あの~、状況についていけないんですけど……”機関”ってなんですか?」


 「――異世界に行きたがってる連中のことです、人体実験などの非人道的なことにも手を出してる」


 なるほど。つまりゴミクズ共ということか―――見た目は普通の少年だが、さっきの吸血鬼を吹き飛ばした一撃のこともあるので、俺は警戒心を一気に引き上げた。


 「そこのお兄さんはあなたの協力者か……映像で見たよ。どういう経緯で一緒に吸血鬼探しをしているのか気になるな」


 少年は値踏みするように、俺へと視線を向けてくる。


 (うーん……見た限りいたって普通の一般人って感じなんだけど、妙な気配がするんだよな、この人……)


「――機関の差し金なのは理解しましたが、今回はどいういった目的で来たのですか?また私を仲間に引き入れるつもりで?」


「それも違う。僕は君たちとは無関係の、ちょっとした調査のためにここに来てたんだよ。――そしたら上から急に”伯爵の手下を倒した二人組について調べろ”とか言われちゃって……」


 話によると、どうやら先日の戦いが機関とやらに見られた挙句、動画を撮られてしまったらしい。その映像が上層部で共有され、吸血鬼を倒した連中を捕えて異世界への手がかりを掴もう。――という結論になったとか。


 「なるほど……目的はあくまで調査……ならさっさと消えなさい!私たちを確認した時点でその目的は達成できたでしょう」


 アリスの言う通り。俺らを確認した時点で上からの指示は達成されている。

 このまま何事もなく終わることを期待して、少年へと視線を向けると―――先程吸血鬼を吹き飛ばした魔力弾が、俺の眼前へと飛び込んできた。


 「―――っ!!」


 頭を思い切り横へ傾け、間一髪で避ける。


 「……確かにこのまま帰ってもいいんだけど、上の言いなりってのも癪でね。なによりそれじゃあつまらないからさ―――――ちょっと遊んでよ」


 ついさっきまでの親しみのある笑顔はどこへやら、少年は不気味な笑みをその顔に浮かべ、言い放つ。


 深夜のビル。鉄臭い地下室にて、本日二度目の戦いが始まった。



 ――   *   *   *   *   ――



 爆音が鳴り響く。

 アリスは魔術で衝撃波を生み出し、マラドーナを吹き飛ばした。


 マラドーナは後方へと飛ばされ、すぐに態勢を立て直すと、魔力で全身を強化して壁や柱などを足場に縦横無尽に飛び回る。

 常人ならば目で追いかけることすらできない速度だが、アリスはそれをしっかりと視界にとらえ追撃を加えた。


 アリスの右手には赤い炎が輝きを放つ、それは以前晴明を助ける際に使用した魔術だ。炎はマラドーナを焼き尽くさんと猛々しい勢いをもって飛来するが、彼はそれを腕を振るうことによってあっさりと弾いた。

 マラドーナは勢いよく着地し、すさまじい脚力をもってアリスへと突撃。魔術使用後の隙を突こうとするが、眼前にせまる一本の剣によって阻まれる。

 

 「ふふ、危ない危ない」

 

 顔が真っ二つになってしまったかもしれないというのに、彼は今だ笑みを絶やさない。戦いを楽しんでいる。


 「くっそ!」

 

 そんなマラドーナの様子を見て、晴明は悪態をついた。


 (完全に斬ったと思ったのに……)


 マラドーナはアリスしか警戒ておらず、自分をアリスの付き人Aくらいにしか認識していない。

 晴明はそう考えていたが違ったらしい、やつは晴明をしっかり認識し、なんだったら()()()が乱入してくる可能性も含め、周囲の何もかもを警戒していた。


 「―――ふっ」


 今度は晴明が仕掛けた。


 剣を右へ左へ、次々と持ち替えながら果敢に斬りかかる。マラドーナは、それを魔力で強化した腕で受ける事によってしのいでいる。


 「いいね!殺されるのはもちろん殺すことにも躊躇を感じてない。異世界人ではなさそうだけど、どんな生活してたらそうなるんだい!?」


 『覚悟』の無い人間というものは総じて脆い。マラドーナはそう考えている。

 たとえどれだけ特別な力を持っていいても、『覚悟』のない人間というものは戦いにおいてあっさりと死んでしまうのだ。

 実際、彼が居た研究所でも殺すのを躊躇ったせいで、その隙を突かれて殺されてしまったり、逆に、殺す覚悟を決めていても、殺される覚悟ができておらず、油断してやられてしまう。なんてことはよくあった。


 (――その点で言えば、この人は素晴らしい。初めて見た時から普通じゃないとは思っていたけど、僕を相手に臆することなく斬りかかってくるし、警戒も怠らない……なにより―――)


 「君の身体能力はすさまじいな!見たところ、なんの補助も無し、素の身体能力でそれとは――まるで()()()だ!!……」


 「――――」


 晴明はより力を籠め斬りかかる。


 「前のめりすぎ」


 「!!」


 突如、マラドーナの影がうごめき、刃物のように尖りだす。飛び退くことで回避したが、避けきれずに肩を軽く斬られてしまった。


 「ハハ、惜しい!」


 マラドーナは愉快気に笑う。そして――


 「―――っ!!」


 失神程度では済まなそうなほどの極雷が、マラドーナの身を襲った。


 「私を忘れないでいただきたい」


 晴明が横へ視線を向けると、極雷を発射した張本人アリスが、左腕を帯電させている。


 「っ、忘れてないよ。けど、油断した、これじゃ他人ひとのことをとやかく言えないな……」


 極雷を防いだマラドーナの腕は、皮膚が爛れ、ボタボタと血を流している。ここでようやく、彼の顔は苦渋に歪んだ。



 ――   *   *   *   *   ――



 「……ここまでか」


 マラドーナはゆっくりと目を閉じ、脱力した。張りつめていた空気が霧散する。


 「……諦めたようですね。ではこのままおとなしく―――」


 言い切る前に、”バリン”と窓ガラスが割れる。割れた窓からは二人の人物がマラドーナとアリスたちの間に着地した。


 「――まったく、”面白そうだから一人で行く”と言っておいてこのザマとは」


 「ドーナ、大丈夫?」


 一人はメガネをかけた男、晴明と同い年くらいで、手には刀を持っている。もう一人の方はフードを深く被っていてよくわからない―――声からして女の子…かな?


 「逃げますよ、近くに『教会』の連中も来ています」


 「ちぇー、仕方ないなぁ」


 「!―――、逃がすかっ!!」

 

 せっかく追い詰めたのに逃がすわけにはいかない。晴明はマラドーナに斬りかかるが、それをメガネ男の刀に止められた。


 「どけっ!」


 「私はこのバカの護衛でね。通すわけにはいかない」


 護衛をどかそうと何度も斬りかかるが、全て防がれ、避けられ、受け流される。


 (――、強い!こっちの攻撃がまったく通らない)


 「晴明!退いてください!!」

 

 アリスが大音声の警告を放つ。見れば彼女はとてつもない魔力を右手に集中させていた。それの矛先はメガネの男―――ではなく、さらに後ろのフードの方だ。


 アリスの魔力の高まりに、メガネの男も気づく。そして――

 

 「ミシェル!やりなさい!!!」


 メガネの男が叫ぶと同時、フードの子からとてつもなく不気味な気配を感じた。

 フードの奥からどす黒い魔力があふれ出している。


 「ごめんなさい。でも、仕方ないの」


 ――――――――――――――――――――瞬間。


 (!!!!????????)


 視界が歪んだ。

 幻覚とか頭を揺すられて歪んだように見えてるとか、そんな次元ではない。()()()()()()()()()()()()()()ような、そんな感覚がする。

 晴明は、そのあまりの異常にゲロを吐いて倒れ伏すことしかできなかった。



 ――   *   *   *   *   ――



 しばらくすると歪みは収まる。あたりを見回すとマラドーナたちはおらず、ここにいるのは俺とアリスだけだ。

彼女もあの妙な歪みを食らったのか、とても気分を悪そうに見える。


 「………アリス、あのフードの子……何なんですか?」


 俺の質問に対し、アリスは最悪だと言わんばかりの声で返した。


 「――――悪魔憑き」



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