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――風は

終わりの匂いと、

始まりの匂いを

同じ息で運んできた。


◆◆


小国の争いは終わった。

戦を整える刃が現れ、

弱き国は沈んだ。


殿の元に

まとまった土地と人が集まった。


旗がひとつに束ねられ、

野に散っていた民が

**“国”**という形を見た。


その瞬間――

ひとつの戦国は終わった。


しかし。


城楼に立つ殿は

その旗を眺めながら

微笑むだけだった。


「戦国とは、

一国を得たのちに始まるものだ」


家老はその言葉を理解できず、

ただ沈黙するしかない。



◆◆地方統一の兆し


周辺の大勢力は動かざるを得ない。


「鬼娘が小国を均して

一つの國を立てた」


「その國が隣に立つ」


「ならば我らは

それを呑むか、

呑まれるかだ」


遠国の殿たちが

地図の上で指を這わせる。


ある者は恐れ、

ある者は好機と見る。


だが誰も気づいていなかった。


その新しい国は

小国の寄せ集めではない。


――戦の理によって

均された国だ。



◆◆殿の戦評定


殿は静かに言った。


「乱が終わるのは、

戦が終わるときではない」


「乱が終われば、

戦が“始まる”。」


家老が震える声で問う。


「……殿にとって

この国はまだ始まりですか」


殿は扇を揺らし、

笑った。


「国を得たことなど、

戦の入口に立っただけのこと」


扇が音を立てる。


「地方を統べねば、

戦国ではない」



◆◆さくらの内面


城下を見下ろしながら、

さくらは風を嗅いでいた。


小国たちは

戦ではなく

“均された”。


それは終わりだった。


だが、

風はまだ終わりを匂わせない。


(戦の流れが変わった)


(これからは――

“国を得た者同士の戦”)


(小国ではなく、

刃を持つ国)


それは、

今までより遙かに

刃の意味が問われる戦。


さくらは息を吐いた。


「……ようやく、

戦らしい戦ですね」



◆◆軍の動員


兵が集まる。


旗の色が統一される。


だが、

兵の顔は緊張していた。


小国の叩き合いとは違う。

戦を知る国との戦。


そして軍勢の先には、

当然のように

黒髪の女が立っていた。


大太刀の影が

城門の地に長く落ちる。


民々が囁く。


「……また戦が……」


「鬼娘が行くということは……

今度も凄いことになるんだろう」


その声に、

さくらは振り返らない。


ただ、

大太刀の柄を撫でた。



◆◆殿との対話


出立前、

さくらは殿に一言だけ尋ねた。


「殿、

此度の戦は

何を整えるためのものですか」


殿は扇を閉じた。


「国の“形”だ」


「小国を均して

ひとつにした」


「だが――

国の形は

外とぶつかって決まるもの」


殿の瞳が研ぎ澄まされる。


「この地方の形を決めるのは、

この一戦だ」


「外と戦い、

外を均して、

地方を手にする」


殿は続ける。


「地方統一は

終わりではない」


「始まりの旗だ」


さくらは軽く頷いた。


「では――

その旗を立てに行きましょう」


殿は笑い、


「行け。

戦を“始めよ”。」



◆◆出陣


城門が開いた瞬間、

空気が震えた。


小国の時とは違う。


民が恐れるだけでなく――

期待の匂いもあった。


(国が、

次の形へ進む)


騎馬も徒歩も、

全てさくらの背を追う。


大太刀が揺れるたび、

軍の士気が上がる。



◆◆敵国の陣


地方の巨大勢力は

軍を敷いて待ち構えていた。


「鬼娘は来たか」


「女が大太刀を振るうだけで

勝てると思うな」


と嘲笑する者もいたが、

将のひとりが

その刃の意味を理解していた。


「鬼娘ではない」


「戦を連れてくる女だ」


「戦を整えたい国と

ただ勝ちたい国が

ぶつかる」


「これは……

地方そのものを決める戦だ」



◆◆戦場の空気


霧が立つ。


両軍が睨み合い、

風が間に立つ。


そして――


さくらが

前へ一歩を踏み出した。


その瞬間、

敵軍の将は悟る。


(これは終わりではない)


(……始まりの戦だ)


(戦国が動き出す戦だ)



大太刀の影が

戦場に落ちる。


戦が、動く。


――地方統一の第一歩が

ここで始まった。


――戦場の空気が変わった。


これまでは

数百、数十、

弱国の軍勢が

恐怖で崩れる景色だった。


だが今――

千の兵が剣を構え、

千の兵がその覚悟を支えている。


戦の規模が変わった。


◆◆


◆開戦


軍がぶつかった瞬間、

地面が揺れる。


怒号、陣形、旗。

槍の列と太刀の列が互いを押し込む。

土と汗と鉄の匂いが混ざる。


さくらが斬れば崩れた

──そんな時代は終わった。


一人を均しても、

百の槍がそれを埋める。


さくらは戦場の流れを

初めて“自分ひとりでは及ばぬ規模”として

静かに受け止めた。


(……これが、国と国の戦)


(戦は“数”が形を決める)



兵の列が押し合い、

指揮官の声が飛ぶ。


敵の陣形も乱れず、

士気も揺らがない。


さくらは

歩くだけでは戦況が変わらぬことを悟る。


(私が一人で斬る力は

相対的に薄まる)


(それが“国の戦”)


大太刀を抜く。


その刃は

これまでと違う意味を帯びていた。


戦場の象徴としての刃。



だが敵は怖れない。


恐れはする――

だが崩れはしない。


将たちが兵を支えている。

軍の意思が統一されている。


(ようやく……

戦らしい戦ですね)


さくらは

敵の槍列の前に立ち、

大太刀を振り下ろす。


槍の穂先を十本砕く。

人を斬らない――

だが、その列は一瞬止まる。


しかし、その背後には

百の兵が詰められている。


一人で押し返せる量ではない。



◆◆殿の軍議


殿は後方の丘から

それを見ていた。


側近が言う。


「さくら殿が……

押し止められている……」


殿は静かに笑う。


「当然だ」


「これは“個の戦”ではない」


扇が風を裂いた。


「国の戦は、兵が動かす」


「さくらが一人で崩せぬ戦場こそ、

国を決める戦だ」



◆◆若侍/将たちの戦い


さくらに忠誠を抱いた若侍は

彼女の側面を守るように戦っていた。


(さくら殿が崩せない――

ならば我らが支えるのだ)


槍列を押し返す兵、

刀を支える兵、

陣形を維持する指揮役。


さくらは

初めて背中に“支え”を感じた。


(私の刃は

軍の中で生きる)


(戦は……

私一人の力ではない)



◆◆戦が“広がる”


戦場の中央は

さくらの一太刀で揺れるが、

その揺れを

左右の陣が押し戻す。


地形が変わり、

陣が膨れ、

敵の圧力が増す。


(千の単位――

戦が異なる形になる)


敵国の将が叫ぶ。


「鬼娘ひとりには、

国は屈せぬぞ!」


軍師が答える。


「鬼娘が象徴なら、

象徴を押し返せば

国の意志を折れる!」



◆◆さくらの内心


押し返しながら、

さくらは悟る。


(この戦は……

象徴と象徴の戦)


(刃の意味が

変わっている)



◆◆殿の視点


殿は扇を閉じる。


「今、

戦が国の姿を問うている」


家老が息を飲む。


「殿……

千の戦でこの有様なら……」


殿は言う。


「地方を統べれば、

兵の単位は万になる」


「国が広がれば――

十万さえ動く」


「その時、

人の刃が届かぬ戦が生まれる」



扇がひらりと鳴る。


「だからこそ、

今が始まりだ」


「さくらの刃が

象徴から器へ変わる瞬間」



◆◆戦場


さくらは

大太刀を肩に担ぎ、

深く息を吸った。


(国同士の戦には……

“私という個”の力は

薄まる)


(ならば――)


刃を地に突き、


「――軍、前へ」


その声は

戦場の意思だった。


突撃の号令。


兵たちが動く。


陣が押し返し始める。


さくらは、

歩むことをやめない。


(戦は、

私が均すものではなく――

国が動かすもの)


(私の刃は、

国の心臓として使えばいい)



敵陣が揺れる。


戦は流れ始める。


千が動いた。


だが先には

万の戦が待っている。


その未来を

風が囁いた。


(これは終わりの戦ではない)


(終わりにして、

始まりの戦)


大太刀の影が

戦場で揺れた。


-さくらの戦は、

国の戦へ変わった。

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