頼らなくても済む日
今回で完結です!
それから数日後、私、御厨さん、花音さん、堀江先生は再び警視庁の会議室に集まっていた。
「今回も、秀一郎さんのおかげで事件が解決しました。秀一郎さんによろしくお伝え下さい、花音さん」
御厨さんの言葉に、花音さんが頷く。
「……はい、伝えておきます」
私は、缶コーヒーを飲みながら言った。
「しかし、びっくりしましたねえ。まさか、糸村さんが南さんと浮気してなかったなんて……」
◆ ◆ ◆
私と御厨さんは、昨日織絵さんの住む自宅を訪れた。織絵さんに事件の真相を伝える為だ。リビングには、私達刑事と織絵さんの他、南さんと東山さんもいた。最愛の人を亡くした織絵さんを支える為に訪れたのだろう。
私と御厨さんが事件の真相を伝えた後、織絵さんは俯いて言った。
「鈴音さんが逮捕されたのはテレビのニュースで報じられてましたけど……そういう事だったんですね……。未だに、鈴音さんが犯人だなんて信じられません……」
すると、東山さんが溜息を吐いて言う。
「鈴音さんが随分熱心に『グリーンクローバー』の再結成を勧めてくるなとは思ってましたけど、そこまで切羽詰まってたなんて……」
西村さんがしつこく頼んでも、糸村さんは織絵さんを説得する事はなかった。織絵さんの気持ちを第一に考えていたからだろう。織絵さんは、愛されていたのだ。
しんみりとした空気が流れる中、南さんが口を開いた。
「あの、私、織絵に伝えないといけない事があるの……」
織絵さんが首を傾げて南さんの方に視線を向けると、南さんは意を決したように言った。
「私、糸村さんと、身体を重ねてなんかいなかったの……!!」
刑事や東山さんもいる中での発言に、南さん以外の皆がぎょっとした。
「本当は、糸村さんをホテルに連れ込んだあの日、糸村さんは酔っぱらって寝てるだけだったの。私とそういう行為をしたりしてないの……。でも、ぐすっ……、糸村さんに愛されてる織絵に嫉妬して、誤解を解かないままにしてて……。ごめんなさい、本当に、ごめんなさい……!!」
しばらくポカーンとした後、織絵さんは困ったような笑みを浮かべて席を立ち、泣きじゃくる南さんの背中をさすった。
「いいのよ、文香。もういいの……」
それからしばらく、部屋の中に南さんの鳴き声が響いていた。
◆ ◆ ◆
「そんな事があったんですか……」
私達の話を聞いた堀江先生が呟く。しばしの沈黙が流れた後、私は花音さんの方を向いて尋ねる。
「あ、花音さん、オレンジジュース、足りてますか?」
「はい、大丈夫です。まだ残ってるので」
一人缶に入ったオレンジジュースを飲む花音さんは、そう言って頷いた。私は、コーヒーを一口飲んで呟いた。
「……そういえば、以前は事件解決後も秀一郎さんになっている事が多かったのに、最近は秀一郎さんでいる時間が短くなってるような気がしますね」
すると、花音さんはピタリと缶ジュースを持つ手を止め、ぼそりと言った。
「……もしかしたら、私が秀一郎さんに頼らなくても済む日が、来るのかもしれませんね……」
強い風が吹き、窓ガラスがガタリと音を立てた。
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