メッセージ
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その翌日の夕方、警視庁の取調室の一つには、私、御厨さん、そしてもう一人、ある人物がいた。
御厨さんは、鋭い目つきで、自分の向かいに座っている人物に語り掛ける。
「糸村裕也さんを殺害したのは、あなたですよね?――西村さん」
問われた西村さんは、唇を噛み締めた後、身体を震わせながら答えた。
「……どうして私が犯人なんですか? 私は、糸村さんを殺してなどいません……!」
御厨さんは、そんな西村さんを真っ直ぐと見つめながら言った。
「まずは、アリバイの話からしましょうか。……浮かび上がった糸村さんの交友関係などから、我々警察は、犯人があなた方『グリーンクローバー』の元メンバーの中にいると考えました。そして、事件当日の十一時頃、糸村さんが織絵夫人にメッセージを送っていた事から、犯行はそれ以降の時間だと思われました」
「だったら、私のアリバイはある事になりますよね!? 私は十一時から午後二時頃まで、ずっと会社にいたんですから」
西村さんが必死に訴えるが、御厨さんはゆるゆると首を振った。
「あのメッセージは偽物です。……こちらをご覧下さい」
そう言って、御厨さんは二枚のA4サイズの紙をスチール製の机に乗せた。
一枚目は、『今日も仕事で遅くなるから、ごはんは作らなくていいよ』というメッセージのコピー。事件当日糸村さんが織絵さんに送ったものだ。
そして二枚目は、『十二時は超えそう。今日は夕飯、作らなくて良いよ』というメッセージのコピー。事件の一か月くらい前のものだ。
「この二つのメッセージの違いがお分かりになりますか?」
御厨さんに聞かれた西村さんは、しばらく怪訝そうな顔で二枚の紙を見比べた後、ハッとなった。
「……お分かりになったようですね。事件当日のメッセージでは、夕食の事を『ごはん』と表現していますが、事件の一か月前には夕食の事を『夕飯』と表現しているんです」
そう。スマホの履歴を見た所、糸村さんはいつも食事の事を「朝飯」「昼飯」「夕飯」と表現していた。それなのに、事件当日だけ夕食の事を「ごはん」と表現している。犯人が、糸村さん本人のふりをしてメッセージを打った可能性が高いだろう。
ちなみに、この事に気付いたのは秀一郎さんだ。
「恐らく、糸村さんが『今日のあさごはん!』についてのメッセージを所属タレントに送っていたので、予測変換に『ごはん』が出てきたんでしょう。犯人のミスですね」
御厨さんがきっぱりと言った。犯人が、糸村さんが午前十一時頃まで生きていたと見せかけたかったという事は、実際の犯行は十一時より前と考えられる。
「この段階では、犯人は十一時以前のアリバイに空白のあるあなたか南さんという事になります」
「だったら、私が犯人とは限らないじゃないですか!」
西村さんが勢い込んで言うけれど、御厨さんは動じない。
「いえ、南さんが犯人とは考えにくいです。南さんは、牛乳アレルギーですからね」
糸村さんが、牛乳アレルギーの南さんとピザ屋で会うとは考えにくい。御厨さんが以前、「一人だけ、犯人候補から外して良さそうな人がいる」と言っていたのは、南さんの事だ。
花音さんもこの事に気付いた為、犯人を西村さん一人に絞り込んだのだ。
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