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水底  作者: 南雲葵巴
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タイムカプセル

 南乃花は先ほど拾ったシャベルを持って秀治の元に戻った。秀治は邪魔な草を抜き終わったところのようで額に滲む汗を首から下げたタオルで拭っている。

「お疲れ様。いいものがあったから持ってきたよ」

「シャベルか!助かるな。じゃあ俺が掘り返すから貸して」

「いいよ。草も抜いてもらったし私も何かしたい」

「ダメだ。南乃花の手が汚れるだろ?ここは俺に任せて」

 この幼馴染はなかなか頑固なため一度言い出すと絶対に譲らない。仕方なく持っていたシャベルを秀治に渡すとガツガツと年月を経て固くなった地面を星起こしていく。カツンと金属音がした。タイムカプセルにシャベルがあたったのだ。

 秀治は流れる汗を拭うことなく必死に土を掘り返していく。するとそこから少し錆びた美しいクッキー缶が出てきた。その缶は叔母が外国土産に買ってきてくれたクッキー缶で南乃花のお気に入りだったが、タイムカプセル計画を聞いてそれならばと差し出したものだった。

「懐かしいね。まだ1年しか経っていないけど。早く開けてみよう」

「ああ。そういえば雅也のものはどうする?親御さんに届けた方がいいよな」

「うん。でも親に知られたくないものだったら私が引き取るよ。彼女だし、それくらいの権利はあると思うの」

 南乃花はまだ雅也の彼女のつもりでいる。彼は別れようと言わなかった。だから南乃花はいつまでも雅也のものなのだ。そのことを知っているのは秀治だけだから、雅也が死んでから数多の男に告白をされて南乃花はまだ恋人が死んだばかりの自分に告白してきた全員を軽蔑した。

「開けようか」

 秀治の声にハッと今に引き戻される。最近過去に心がとんで現在の自分を疎かにすることが多いのだ。秀治はそのことも心配していて、セーフガードのバイトの日以外はなるべく南乃花のそばにいるようにしている。

「これ…懐かしい」

 そこには三人の宝物が詰まっていた。南乃花はお気に入りだったキーホルダーと自分への手紙、秀治はポケモンカードと自分への手紙。雅也は三人が写った写真と自分への手紙。そしてもう1通。南乃花への手紙。南乃花は心が高鳴った。雅也が自分に残してくれた手紙。それが嬉しくてその場で開封して読み始めたがそこには白紙の紙が2枚入っているだけだった。

「これ…なんだろ?なんで白紙なのかしら」

「…」

 質問の答えが返ってこないことを不思議に思うと秀治は今まで見たことのないような苛立った顔をしてその2枚の手紙を見つめていた。南乃花は秀治が心配でその手紙を握りしめて自分の手紙を読み始めた。

『こんにちは10年後の私。もう恋人はできた?それとももしかして結婚しちゃってる?それはないか。私は看護師の勉強がしたいって言ってたものね。どうかな?夢は叶った?看護師になったら雅也の開く診療所の手伝いをできるから、ずっと雅也と一緒にいられるものね。その夢が叶うように祈っています。そして勇気のない昔の私から未来の私に一つだけお願いもし、まだ雅也があなたに告白していなかったらあなたが勇気を持って告白してね!頑張ろう、未来の私』

 涙が溢れて止まらなくなる。過去の私に伝えたい。もう雅也はいないのだ…と。ずっと目を背け続けていたけれど、ぞの事実がはっきりと突きつけられて南乃花の心をえぐった。秀治は自分の手紙を読んで何か考えに耽っているようだったが、目が合うと雅也の手紙をヒラヒラさせたながら近寄ってくる。

「これ、どうする?」

「雅也には悪いけど、私は開けて読みたいと思う。だってここには雅也の気持ちが書かれているから。私は知りたい。雅也の気持ちを」

「わかった」

 秀治はそういうと手紙を開封して南乃花にも見えるように手紙を広げた。

『未来の俺へ。もう南乃花にプロポーズした?まだだったら急いでするんだよ。少し機会を逃したら南乃花みたいな素敵な女の子はあっという間にどこかに行ってしまうからね。それからXには注意している?何も起こっていない?俺はそのことだけが心配だよ。どうか未来が幸せに溢れていますように。そうだ子供は五人欲しいかな。女の子と男の子両方いたらきっと楽しいよね。じゃあ頑張って、未来の俺』

 雅也らしい手紙だった。10年後、本来なら南乃花はプロポーズされていたのだ。それを目の当たりにしてまた涙を流す。子供のように嗚咽を漏らして泣きじゃくる。ポタポタと涙が溢れて手に持っていた白紙の手紙が少し濡れてしまった。それでも止まらず秀治が心配して背中を刺すてくれる。その時だった。岬にある森の茂みから男の人が二人を見つめていることに気がついた。遠くで顔はわからないけど、さっき私を見ていた人と同一人物なのは間違いないだろう。秀治は苛立ってその男の元に走っていくとさっと身を翻して茂みの中に消えてしまった。慌てて南乃花も秀治をおったが男性が立っていた場所はここ数日雨も降っていないのに、水たまりができている。まるで彼がずぶ濡れでその雫が溜まったかのように。なんとなく気味が悪くて南乃花は秀治の袖をひく。

「日も暮れてきたし帰ろう」

 秀治は何か考えているようで一瞬間をおいて答える。

「ああ…帰ろうか」

 そういうとまた南乃花の手を握って歩き始めた。先ほどより強く握られた手は痛んだが秀治がいつもの優しい顔でなく、厳しい顔つきをしていため、何も言えなかった。

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