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水底  作者: 南雲葵巴
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気泡

 

 見上げるときらめく水面とふくふくと上がっていく気泡が見える。彼が見た景色はこうだったのだろうか。息が苦しくなり一気に水面に浮上してゴーグルを外した。ザザンと波の音が聞こえる。海面が波で上下するのに合わせて佐竹南乃花は泳いで波打ち際までやってくる。

「南乃花!あまり潜水するな。波にさらわれたらどうするんだ」

 幼馴染の天木秀治がセーフガード用の椅子の上から声をかけてきた。彼は鼻筋の通ったほりの深い顔で、紳士的な振る舞いとそれとはギャップのある鍛えられた身体で彼目当てに海水浴にくる女の子がいるほどの人気だった。

「おちつくんだ。水面をみてると」

 それだけ言うと秀治には目もくれずおいてあったパーカーを羽織ると家に向かって歩き始めた。今は秀治と話す気分ではない。1人になりたかったのだ。

「待てよ。俺はもう交代の時間だから一緒に帰ろう」

秀治はそう言いながら高椅子から降りてきて南乃花の手をつかむ。南乃花はサラサラの黒い長い髪に二重の瞳、鼻筋が通ってぽってりとしたくちびるの見目麗しい美少女だったので、水着でうろくつと何かとあぶなっかしいのだ。以前も家までつけられてストーカーをされたことがあったが、そのストーカーは南乃花に何か危害を加える前にふっつりと消えてしまった。

「一人でいいのに…過保護」

「大切な幼馴染だから…それくらいさせてくれ。お前に何かあったら雅也に合わせる顔がない」

「もういない人のことは話さないで」

 少し語気強く言うと秀治の方を振り返らず歩き始めた。彼は南乃花の言葉を受けて、それ以上刺激しないようにそっと後ろをついて歩く。悪いとは思っているが、雅也のことを引き合いに出されると胸が軋むのだ。

(あれから1年だっているのに今だに信じられない)

 雅也が死んでから1年目の夏がきたのだ。

 

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