待ち合わせに
三題噺もどき―さんびゃくろくじゅうさん。
川沿いにできている遊歩道を歩いていく。
ときおり、散歩中のご老人や、ペット連れの親子とすれ違う。
季節がようやく巡り、風は少し冷たい。それでなくても川沿いではあるから、冷えはするんだけど。時々服突風の冷たさと言ったらない。
「……」
それでも日差しは暑いくらいなので、毎日服装に困る日々だ。
テレビでは薄手のカーディガン羽織れば丁度いいかもしれないですねぇ……みたいなかんじで言っていたが。それでも風が吹くと身が震える。
まぁ、今日はそのカーディガンの下は半そでを着ているからかもしれないが。
「……」
これから、移動やら何やらで動くのを考えたら、これの方がいいだろうとなったのだ。
今は川沿いで、風が殊更冷たいだけだろうから、平気だろう。
「……」
家から少し離れたところにあるこの川。
この辺りにある、唯一の有名場所で、観光スポット的な場所である。
ちらほら、観光客らしい人を見ることもあるし、同じ県内でもわざわざここまでくる人も居ると聞いたことがある。
「……」
身近にあるものでしかないので、自分的には何とも思いはしないんだが。
夏場はここで、カヌーとかカヤックとかもしているらしい。
自分は見たことないが、両親がなんか言っていた。
「……」
今日はここに、特に散歩に来たとか、観光とか、カヌーをしに来たと言うわけでもない。
地元の人……というより、この辺りに住む学生らにとっては、ここは1つの待ち合わせ場所として在るのだ。
この川沿いの道の先に、1つの銅像が立っているので、そのあたりでよく待ち合わせをする。
あれだ、都会の有名な犬の銅像の待ち合わせスポット的な感じだ。
―かく言う自分も、そこへ向かっていたりする。
「……ん」
歩きながら、斜め掛けにしている鞄の中を探る。
正直面倒なので、スマホ片手に歩きたいところではあるんだけど。
そういうのは得意ではないし、何より人とぶつかる方が面倒なのでしない。
この辺を歩いている同じ年、または少し上か下あたりの人たちは、スマホに夢中で歩いているけど。こちらも同じことをしていては、なぁ……。衝突してしまう。いろんな意味で。
……こちらが避けるのも意味は分からないと思わなくはないが、言っても無駄というものだろう。
「……」
財布とその他諸々の荷物の間に挟まっていたスマホを取り出す。
少し道の端によけ、スピードを落として注意しつつも歩いて……みたが、止めた。
耳にイヤホンをして、音楽を聴いていたのだが、つい先ほど一瞬音が小さくなった。
何かの通知が来たときにこうなるのだが……。普段は気にもしない。
が。
今日はそういうわけにもいかない。
―待ち合わせをしているので。
「……はや」
みると、あの子からの連絡だった。
「ついたよー」というメッセージと、あの子のお気に入りのキャラクターが敬礼のようなものをしているスタンプ。それに続いて、そわそわしている感じのスタンプも来た。
時間を見ると、待ち合わせの10分前……早くはないか。
いつもこれくらいだもんなぁ……。
「……」
了解というスタンプと「ちょっとだけまって」というメッセージを送り、スマホを閉じる。
先程よりは気持ち速足で待ち合わせ場所へと向かう。
今日は早めにつくつもりだったんだけど……。
「……」
歩いていくうちに、すれ違う人々に若者が増えてきた。
2人組だったり、3人組だったり、明らかなカップルだったり。
……仲がよさそうで何よりだ。
「……」
そうこうしているうちに、視界の隅に銅像が現れた。
そのすぐそばにいると言っていたけど……果たして。
周辺には同じように待ち合わせをしている人が、ちらほらと。
密集していると言う程ではないが……今日は休日だからなぁ。猶更人が居るのだろう。
「……ぁ」
立ち止まったまま、あたりを見渡していると、見つけた。
スマホを見ているのか、うつむいた姿勢のまま、1人ぽつんと立っている。
「……」
声を掛けようか迷ったが、目立つのは嫌いだ。お互い。
近くに行って声を掛けることにしよう。
そう思い、止まっていた歩を進める。
「――」
その瞬間、こちらに気づいたあの子と、視線が合った。
スマホから顔を上げ、こちらに顔を向ける。
その瞬間、蕾が開く様に、可愛らしい笑顔が生まれる。
視線が合っただけなのに。
どうしてそんなに、嬉しそうにしてくれる。
「――」
思わずにやけそうになった表情筋を引き締め、進んでいく。
これだけで、こんなになってしまうのに……今日1日もつだろうか。
お題:蕾・突風・視線