表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お茶会は災厄の後で  作者: ねむいねむい
第1章 プロローグは望郷の果てに
8/11

春の嵐と友達の予感

 朝の少し張り詰めた空気が肌を撫でる。目を開け、瞬きを数度。ゆっくりと身体を起こせば、朝と夜の狭間の中で世界が一瞬の青に空が染まっている。

 窓を開け、息を吸う。澄んだ空気と、新緑の香りがマリアの肺を満たし、未だに夢の名残を引きずる脳を優しく揺り起こした。今日は何をしよう。ウィーオラははやく熱処理をしないと魔力放出が出来なくなるから、ジャムを作らなくては。

 今日やるべきことを素早く組み上げながら、いつもと変わらずに寝間着を脱いで着替えていく。


「あ、そういえば......。」


 ベッドの上に置かれた本を手に取る。あちこちが剥がれ落ちたボロボロの装丁だが、問題なく読めるそれ。第七次テレジア捜索隊の冒険者が引き上げたこの本には、かろうじてライラの名が刻まれたまま残っている。

 右肩上がりの母の癖をなぞりながら、これを渡してくれた冒険者のことを思い出す。マリアとそう変わらない年齢でありながら、冒険者として活躍しているらしい女の子。

 冒険都市星の街(アストルム)で活動する彼女は、そっくりな顔立ちの姉妹たちと並び立ってマリアに誇らしげに笑いかけてくれた。


『あたし、モモって言うの。こっちはナノハナとサクラ。顔そっくりでしょ。三つ子なんだあたしたち。先祖がアズマの血らしくて、珍しい名前でしょ。なんか困ったことがあったらまた言ってよ。サクラが森の遺跡に興味あるらしくてさ、しばらく滞在するから。』

『モモ、あまり困らせてはいけないわ。ごめんなさい、モモは一度話し出したら止まらないんです。でもモモの言う通り、困ったことがあれば言ってください。私達、力になります。』


 陰鬱を跳ね除けるように笑ったモモは、まるで春嵐のようだった。それを嗜めるサクラの柔らかな笑みと、少し後ろに立つナノハナのまっすぐな翡翠の目。よく似た顔で、全く違う3人はどこかアンバランスで、そしてどこまでも調和の取れている3人だった。

 今年は少し多く取っちゃったし、おすそ分けしても良いかも。瓶いっぱいのジャムでも、3人いればすぐになくなるだろうし。それから、もう一度本のお礼もしたいし。そんなことを考えながら、マリアはまっすぐにキッチンへ向かった。


 井戸から汲んだ水で軽く洗い、表面の皮を磨いたウィーオラたちを鍋に入れる。竈に薪と木の葉を入れ、竈の内側にある火のマナを閉じ込めた簡易術式に力を送る。竈の中にびっしりと刻まれた魔力動線にマナを送れば、あっという間に火がついた。便利なものである。

 壁際にある戸棚から昨年花畑で集めたはちみつを取り出し、これもまた鍋の中へ入れていく。恩人への贈り物なので、贅沢に使おうとひたひたになるまで注ぐ。とろりとした金色が、ウィーオラの紫を包み込んでいく様はいつもワクワクしてしまう。

 へらで掻き混ぜながら、マリアは自然と鼻歌を歌った。難民キャンプ以外の人たちへ以外への贈り物なんていつぶりだろう。逸る心のまま、マリアはふたつが形をなくして混ざり合うまで待ち続けた。

お久しぶりです。

今回もお読み頂きありがとうございます。また次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ