6.
手紙に添えられていた、父親の住所は、店からすぐ近くの空き家の地下だった。
ユリアは、居ても立っても居られず、店から飛び出して、住所地まで走った。
地下への通路は、空き家の本棚の後ろに階段が隠されていた。住所に書かれた地図を頼りに、ユリアは地下道をずんずんと進んでいく。
すると、地下道の突き当たりに、部屋があり、隙間から電気の光が差していた。
扉のドアを開けると、ソファーに父親が座っていた。白髪が増え、無精髭が伸びて、年老いて見えたが、優しい目はあの頃の父親のままだった。
「お父さん」
ユリアが口を開くと、父親はビックリした顔を和らげ、
「ユリア、よく来たね」
と言って両手を広げたので、ユリアは父親の胸に飛び込んで、泣き喚いた。今まで我慢していた栓がとれたように、ユリアは幼子のように泣きじゃくった。
「ユリア、今まで頑張ったね。手紙を読んだかい?」
父親は優しくユリアの髪を撫でて言った。
「ええ、読んだわ」
ユリアは、そう言って、今までの経緯を話した。
「なるほど、アツロウの娘を救うために、力を使ったんだね。そして、ミレーユの力で弱くなってしまったアツロウを救うために、箱を開けたのか」
父親は、うんうんと頷き、ユリアに共感して頷いた。
「よし。では、闘おう。私も、このために、準備をしてきた。あと、もう一人仲間がいる」
「え?」
「隣の部屋で、覗いているタロウだ。タロウ、入って来いや」
父親が呼ぶと、タロウは隣部屋からドアを開けて入って来た。
「こんちわ!」
タロウは豪快に笑って頭を下げた。
「タロウは、風の使い手。実は私が街の人々から中傷されたとき、私を心配して、ここに身を隠すようにしてくれた」
「よろしくね!ユリアちゃん。俺も力の加減ができなくて、すぐ風を起こしてしまう。追われてここに身を隠すようになったんだ」
タロウは、へへっと笑って説明する。ガタイのいい体に、陽気で明るい性格だった。
「父親を助けてくれて、ありがとう!これから、一緒に行ってくれるの?」
「もちろんさ!聞いた話では、火の使い手だろ?風の力があれば、火を消せるぜ!」
タロウは、胸を叩いて、ガッテンマークを作る。
「よし!夜に決行だ!闘うぞ!」
父親は立ち上がり、手を挙げて叫んだ。
ユリアとタロウは、「おー!」と、声を張り上げ、意気込みを見せた。
その夜、3人は、アツロウ、カナイ家に忍び込んだ。父親の能力で、外塀から家の中を透視して、すぐにミレーユとアツロウの寝室まで忍び込むことができた。
アツロウは、ミレーユに睡眠薬を入れられ、眠らされていた。
「ごめんなさいね、あなた。私には愛する人が待っているの。伯爵家は私と愛する人で守っていくから、心配しないでね」
ミレーユは、火の呪文を唱え、アツロウの体内に熱を注入しようとする。
そのとき、タロウが風の渦を起こし、ミレーユの火を消した。
「なにもの?」
ミレーユは、目をギョロっとさせて、敵意に満ちた目を3人に向けた。
「アツロウは、死なせない!」
ユリアが叫ぶと、タロウは竜巻を起こし、ミレーユの火の力を破った。どうやら、ミレーユの力より、数倍、タロウの力が強かった。
その隙に、ユリアがアツロウを両腕で抱き、傷を癒した。
アツロウが目を覚まし、ユリアを見つめた。
「ユリア、長い夢を見ていた。やっと、君に辿り着くことができた」
アツロウは、全てを理解した目で、愛し気にユリアを見つめる。
「私も、娘も、助けてくれてありがとう。綺麗になったね」
アツロウはそう言って、ユリアにキスをした。ユリアの頬は真っ赤に染まり、ゆっくり目を閉じる。
「おーい!外野もいますよ。。」
タロウと父親は、苦笑して言う。
アツロウは、丁寧に頭を下げ、
「私も一緒に闘います」
と、ユリアと共に立ち上がった。
「よし、まずは店に戻って、ユリアの母ちゃんを迎えに行かないとな!」
タロウは、また豪快に笑って言った。
「よし!共に闘おう!相手は世間だ、手強いぞ!」
いつの間にか、キノアは、アツロウとユリアの間に来て、混ざっていた。
「おー!私たちなら、大丈夫!」
ユリア、ユリアの父親、タロウ、アツロウ、キノアの6人は、大手を振り、古書喫茶店へと勇んで向かった。
~第一部・完~