5.
ユリアが店に帰ると、貼り紙があちらこちらにされていた。
「魔女!出ていけ」
「この街から出ろ!」
「父親のところに行け!」
ユリアは、父親が誹謗中傷を受けた頃のことが走馬灯のように蘇る。
ユリアの顔は真っ白であった。何のために今まで地味にしてきたのかわからない。
無心で貼り紙を破り捨て、店に入ると母親がぼうっと座っていた。あの頃、うつ病になってしまったときと、同じ表情をしている。
「お母さん、ごめんなさい」
ユリアは泣きながら言った。
母親は、ユリアに背を向けたまま、ボソボソと独り言を言っている。
「私たちは何も悪くないのに、、あの人がいき、ユリアまで私から奪うの?」
ユリアが耳を傾けると、そのような言葉を繰り返し呟いていた。
ユリアは、もうこの街に居れないと感じた。この街から出なければいけない。
しかし、その前にやらなければいけないことがあった。
アツロウを救わなければいけない。
「お母さん、少しだけ待っていてね」
ユリアは、母親の背中を抱きしめて、そっと呟いた。
ユリアは、その夜、アツロウの家に忍び込む準備をした。
今まで、妻帯者だからと、恋の気持ちは抑えていた。しかし、今日、キノアを救ったことで、全てが一変した。
ユリアは、ひっつめて結んでいた髪をほどき、櫛でといた。白粉を塗り、アイラインを描き、薄いピンクの口紅を塗った。
ユリアは、見違える程の日本美人に変わった。黒いた瞳は煌め気の光、鼻筋は通り、気品が感じられた。
そして、父親から託されていた、箱を紐解いた。
「ユリア、何か困ったときには、この箱を開けるんだ」
父親の事付けは、今であった。
箱の中には、手紙が入っていた。
「
愛するユリアへ
君がこの箱を開ける時は、全てが動く時だけだ。きっと、何か困難なことがあって、この箱を開けたのだろう。
ユリア、私の血が災いして、過酷な運命を背負わせたこと、本当にすまなかった。
私は、人々の酷い仕打ちから、逃げたが、それは間違っていることを知っている。
本来は、闘わなければいけないのだ。
私の住所を記載しておく。
共に闘おう。運命から逃げるだけでは、前には進まない。待っている。
父より」
ユリアは、父親の手紙を読み、決心を固くした。
何と闘うのだろうか。
アツロウを苦しめる火の力と、
そして、
母を苦しめる世間と。
ユリアは手紙を握りしめて、頷いた。