愛情と憎悪が混ざりゆく中で美しさが生まれる
愛しているから貴方を憎む
愛しているから貴方を壊す
愛しているから貴方を支配する
愛しているの
愛しているから私だけの「ゆう」でいて。
全ては「愛情」から始まった。純粋な愛は音を立てて崩れ落ち、私の足元へ転がっている。私はタバコを吸いながら、壊れかけのあいつを見ている。
見下すように、嘲りながら。
私の足元で縋り付くあの女は「捨てないで」と呟きながら、私を見上げる。
醜い。
あの女はいつでも私を縛り付ける。そして人生さえも管理しようとする。言う事を聞かなければ犠牲になる人間が増えるだけだ。
私に近づいてくる人間をあの女は許さない。自分の元から離れないように、全てを潰す。
ゆうの為なのよ
貴方を愛しているから、汚い人間どもから守っているのよ
私は悪くないわ、悪いのはあの人間ども
あの女はそう呟きながら、地べたに座りながら震えていた。
私は血まみれになった右手であの女の頬に触れる。そして唇へとずらしていく。
あの女は私の瞳を怯えながら見つめる。まるで小動物のようで笑ってしまう。
あふれ出る血を見つめながら、何度も「ごめんなさい」と謝り続ける女。
お前が私を「支配」するんじゃなかったのか?と狂ったように笑いながら問いかけた。
私の右手はあの女が振りかざしてきた包丁を素手で受け止めたからだ。そこまで傷は浅くないのだが、私の手から流れる血を見て、正気になったあの女は「私は悪くない」と戯言のように呟いている。
それを見ていると醜さを感じる中でも美しさを感じてしまう私がいた。
私は言った。
「私はお前の「支配下」なのだろう。だがな、お前が私を「支配」しようとした時点で叶える事が出来ない「妄想」なんだよ。理解しているか?」
支配をすると言う事はリスクが高い。逆に私がお前を支配する「チャンス」が生まれるのだから。
あの女は今までしてきた過去の過ちを捨てるように、吐き捨てた。
「ゆうは私のものなのよ。自由なんて必要がない、幸せになる資格も「ゆう」あんたにはない。そして「人間」で居続ける事も「罪」そのもの」
私はため息を吐きながら言う。
「そう思うのなら何故産んだ? 産まなきゃよかったんじゃないか。お前のエゴだろ」
呆れたように言葉を吐く私を見ながら、再びカタカタと震えだした。
「私の子供なのに「あの女」に似ている、どうして。私が一番「ゆう」を愛しているのに、何故分かってくれないの?」
「じゃあ逆に聞くがどうして私の友人に接触した?金まで渡して、私と関わるのをやめろ、だって言ったみたいだな」
「仕方ないじゃない。ゆうが人形になってくれないからよ。私は貴方を愛しているの。だから私のものにしたいのよ。私だけのゆう、私だけの子供、私だけの人形、私だけの命令を聞く「ロボット」それが貴方の存在なのよ」
私はあの女の首を掴みながら、ニヤリと笑った。
「そんなに私が必要か?なら望みを叶えてやるよ。お前いつも言っているよなぁ「私と一緒に死んでくれ」って。誰にも渡さない為にと」
「私と一緒に死んでくれるの?」
「疲れた、お前の茶番に付き合うのは。それにお前が望む「愛情」がそれなら。与えてやるよ」
一緒に地獄に落ちてやろう。
お前が望むのなら朽ち果ててやろう。
お前が私を産んだのだからお前が望めば私が答える。
私は笑顔であの女が落とした包丁を握る。血まみれになった刃先が光ながら、女の喉を捉えようとしている。
「お前が私を支配してるんじゃない、私がお前を支配しているんだ。勘違いするな」
あの女は縋り付きながら「生きる」事に執着する。
一方私はあの女に与えられた苦痛のおかげで、どんだけ傷を負っても「痛み」を感じない体になっていた。
それが愛情と言うのなら、私は愛情を憎む。
お前が示す歪んだものが当たり前だと思うのなら、もっと苦しみを感じさせてやる。
「有難く思え、地獄に落ちてやるよ一緒に」
私は微笑みながら、耳元で何度も呟く。
「二度と逃げれると思うな。お前から仕掛けた事だ。私を怒らすお前が悪い」
愛しているの貴方をだから傷つける
愛しているの貴方をだから私を捨てないで。
こんな環境の中で精神を保とうとするのだが、全ての「破壊」そのものが美しいと錯覚してしまう過去の私がいたのだ。