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近代乙女怪談物語集  作者: 白百合三咲
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海のお城 第1話

 ごきげんようお姉様。


お久しぶりですわね。1週間振りかしら。女学校にいらっしゃらないから心配していた?ごめんなさい。少し風邪をこじらせてしまって。

雨の中わざわざ来て下さって嬉しいですわ。でもお姉様も大事になさって下さいね。こんな雨ですもの。立ち話もなんですわ。どうぞおかけになって下さい。今メイドにお茶を持ってこさせますわ。

 まあ、お姉様わたくしの装いがいつもと違うですって?

ええ、いつもの洋装も好きですが今日は気分を少し変えて漢服にしてみましたの。

お姉様の水色の振り袖に紫の袴も上品で素敵ですわ。紫陽花の精かと思いましたわ。

まあ、お世辞がお上手ですって。うふふ、お姉様ったら。

 今日はお姉様をお呼びしたのはこの天気が原因ですの。どういうことかですって?こんな強い雨の日はお姉様がいてくださると安心するのです。こんな日はあの恐ろしい体験を思い出してしまいますから。

 お姉様も女学校でまことしやかに流れてるお噂を耳にしたことはあると思いますわ。

そう、あれです。


「雨の日は海辺に近づいてはならない。海の城から使者が迎えに来る。」


連れて行かれた者はお城から二度と戻ってこれない。

で合ってたかしら?わたくしは最初は子供が雨の中出歩かないように母親達が考えた作り話としか思ってませんでしたわ。あの時までは。

 



 あれは1週間前のことです。わたくしが風邪で学校を休む前の。その日も今日のような雨でした。わたくしは声楽のレッスンに行くためにお気に入りのピンクの傘をさして歩いていました。新しいワンピースと同じピンク色です。

いつもなら家の馬車で行くのですがこんな大雨です。馬車が滑ってしまっては大変です。今日は踝より丈が少し上のワンピースにヒールの高いブーツを履いて歩いてお教室まで向かうことにしました。

 海辺に差し掛かかった時です。

「ないわ、どこかしら?」

雨に濡れながら浜辺にしゃがむ少女がいました。

「どうなさいましたの?」

わたくしは彼女に話しかけていました。

お教室に行かなければなりませんでしたが雨の中ずぶ濡れの少女を放っておくのも気が引けました。

 彼女は漢服のような装いをしていました。今のわたくしと同じような。

「実はイヤリングを落としてしまいました。」

彼女が落としたのは白い貝殻のイヤリングです。彼女の右耳につけたのと同じ物だと言いました。左耳には何もつけておりません。

(左耳のを落としてしまったのだわ。)

わたくしは彼女のイヤリングが砂に埋もれていないか探しました。こんな天気ですもの。もしかしたら波にさらわれてるかもしれません。

そう思って砂を掘り返してると白く光る物がありました。

貝殻です。しかし金具のようなものもついています。

「もしかしたらこれかしら?」

声をあげると漢服の少女もやってきました。

「それよ。」

少女は左耳にイヤリングをつけます。

「良かったわ。見つかって。」

「ねえ、お礼をさせて。一緒に来てほしいの。」

少女はわたくしの腕を強く引っ張ります。

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