紫陽花の少女第3話
「君、こんな雨なのにどうして?」
次の瞬間お姉様は川に突き落とされたそうです。
雨で水位が上がっておりお姉様は水面に顔を出すのがやっとでした。
岸では少女が満面の笑みを浮かべていたそうです。
「どうして?」
「だって私達結婚するんでしょ?こうしなきゃ一緒になれないじゃない。だって約束したでしょ?」
流れは早くお姉様は濁流に飲み込まれ意識を失ったのです。
お姉様が目を覚ましたときは病院のベッドの上でした。お姉様は濁流にのまれ溺れそうになりましたが岸辺にいたジョセフィーヌがお姉様の軍服を口で掴み岸まで引き上げてくれたそうです。
ジョセフィーヌは管理人を呼びに行ってくれたのでお姉様は一命を取り止めました。
その後お姉様から聞いたのですがあの地域に1人の少女がいてあの川辺で陸軍の少尉である恋人と会っていたそうです。少女は紫陽花の着物を着て会いに行ってました。
2人は婚約したのですが先の大戦により恋人は出征。帰らぬ人となったのです。
そして大戦が終結した1918年の6月少女はあの川に身を投げて命を絶ったそうです。
「この季節になるといつもあの時のことを思い出すんだ。きっと僕の軍服姿を見て恋人と重なったのだろう。彼女がもしまだ恋人の元に逝けていないなら彼女があまりにも不憫だ。」
優しいお姉様は涙ながらに話してくれました。自分を道連れにしようとした相手のために涙を流せるお姉様の心に寛大さを感じました。
先週の金曜日お姉様は週末は家族でまた別荘で過ごすとおっしゃってました。
「それからあの川辺に行って少女に花を供えてくる。」
先週は土曜日も日曜日も雨でした。
今週は金曜日になるというのにお姉様の姿を学校で見かけておりません。お姉様の授業を受け持つ教授に聞いたところお姉様はずっと休んでいるとのことです。風邪でしょうか?
わたくしはお姉様が心配です。
大正14年6月24日 水無月清子