紫陽花の少女第2話
お姉様はその頃から男装していたため、軍服姿のお姉様を軍人と間違えたのでしょう。
「お嬢さん、悪いが僕は少尉ではない。」
「何言ってるの?貴方は私と婚約したのよ。私を迎えに来てくれたんでしょ?」
「やれやれ」
お姉様は軍服の上着を脱ぎタイを緩め少女に胸元を見せました。
「この通り僕は女だ。君の婚約者ではない。信じてくれたか?」
「女でも素敵な方ね。どうして男の格好なんて?」
「秘密だ。」
「ねえ、また会いに来ていい?私あなたともっとお話してもしたいわ。」
「好きにしろ。だけど僕は週末しかこっちにいない。だからまた来週来てくれ。」
少女は嬉しそうに去っていきました。
きっとお姉様も嬉しかったのでしょう。お姉様は兄が1人と弟が2人。別荘では男ばかりなのに女の子の話し相手ができたのですから。
翌週からお姉様はその少女と過ごすようになりました。ジョセフィーヌに乗って川辺に行くと紫陽花の着物を来て少女がお姉様を待っていたそうです。
2人はお花を摘んだり、ジョセフィーヌに乗って遠出をしたりしました。
「僕が男装してる理由?そうだな生きるためかな。」
「どういうこと?」
「僕は男兄弟に囲まれて育ったらからお転婆で破天荒で嫁の貰い手がないなんて両親から言われてきた。僕も結婚なんてしたいと思ったことはない。だからいっそのこと男として生きて働いてみようと思うんだ。来年女学校を卒業したら上の学校で法律を学んで弁護士になろうと思う。」
「だから男の振りをしてるのね?」
「ああ、そうだ。」
「そしたら私のことお嫁さんにしてくれる?」
それはお姉様にとって思いがけない申し出でした。
「少尉とはどうなんだ?君の婚約者じゃないのか?」
「彼は先の大戦で亡くなったの。だから本当はもう会えないのに。あなたが来たときは少尉が帰ってきたと思った。そんなはずないのにね。」
「分かった。もし僕が弁護士として身を立てられるようになったら君を迎えに行く。」
「嬉しいわ。ねえ、そう約束してくれるならまた明日川辺で会いましょう。二人だけで婚約式しましょう。」
お姉様はその翌日少女と会う約束をしました。
しかしその翌日。天候は悪くお姉様は軍服に合羽を羽織りジョセフィーヌにと共に約束の川辺に向かいました。少女はまだ来ていません。
(さすがにこの天気じゃ来れないか。)
そう思って帰ろうとした時です。
「来てくれたのね。」
少女がやってきました。いつもと同じ紫陽花の着物を来て。
「これで一緒になれる。嬉しい。」
少女はお姉様に抱きついてきました。その時お姉様は不可解なことに気づきました。
少女は大雨だというのに傘をさしてません。それに着物の髪も全く濡れていなかったのです。