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近代乙女怪談物語集  作者: 白百合三咲
16/18

未来の王子様 第2話

「ねえ、お外に出てみない?」

「お姉様、夜間の外出は禁止されているはずですよ。」

真面目な結乃から意外な提案だ。

「分かってるわ。どうしても今夜じゃなきゃいけないの。」

 結乃に手を引かれ裏口からこっそり寄宿舎を抜け出す。山道へと入って行く。

「お姉様、どこへ行くのですか?私怖いわ。」

結乃が持つ灯りと星の光だけを頼りに森の奥へと進んでいく。どれくらい歩いただろうか?


「着いたわ。」


目の前には湖が広がっている。その上には満天の星空だ。

「綺麗。こんな場所があったなんて。」

この湖には噂がある。満月の夜に灯りを持って湖を覗くと未来の結婚相手が見えると。

「明治時代にこの泉をうちの生徒が覗いたら軍服姿の金髪の美青年が写ったの。彼はヨーロッパの王子様で女学校を訪問に来た時彼女を見初め結婚を申し込んだそうよ。」

未来の王子様を知りたい。それが東明を選ぶ娘が多い理由だ。

「お母様から縁談の話を持ちかけられたの。」

夏休みに入ってすぐの事だった父の取引先の会社を経営してる伯爵の長男だ。

「お母様は彼はいずれ会社を継がれるから申し分のない相手だというのよ。だけどどんなお姿かが気になってしまって。」

それで彼の姿を泉で確かめに来た訳だ。

「あの、お姉様。」

しずが結乃の腕を掴む。

「お姉様がご結婚されるということはこの学校を去るという事ですよね?そしたらお姉様は私のお姉様ではなくなるのですよね?」 

「しず、大丈夫よ。わたくしが例え嫁いでも女学校を離れても貴女はいつまでもわたくしの大切な妹よ。」

結乃は両手を差し出ししずを抱き締める。しずが安堵の表情を浮かべるとしゃがみこむ泉の水面を覗き込む。




あれから3年が経った夏。

しずは1人ランプをかかげ花束を抱えながら泉に続く道を歩く。3年前お姉様と来ていたから道順は覚えていた。ただ2年前と違うのはお姉様がいないということだ。

 泉の畔に着くと花を添え手を合わせる。2年前お姉様は泉から転落してなくなったのだ。

 しずが帰ろうとした時ふと泉の方をみる。お姉様から聞いた噂を思い出したのだ。

「満月の夜に泉を覗くと未来の結婚相手が見えるのよ。」

しずは今年で女学校の最終学年になるが未だ縁談話はない。空を見上げると丸い月が泉を照らしている。

「どんな人かしら?私の未来の王子様。」

しずは泉の水面を覗き込む。風もないのに水面が揺れ泉に写るしずの姿を変える。

「結乃お姉様?!」

泉に写ったのは3年前に死んだはずの結乃であった。泉の中の彼女はしずを睨んでいる。

「嘘よ!!お姉様は死んだはずよ!!」


「お前に殺されたんだ!!」


結乃は水中から腕を出ししずの首を掴む。

「やめて!!お姉様何を言ってるの?!!

苦しい!!」

「わたくしはもっと苦しくて冷たかったのよ!!」

結乃はおもいっきり泉の中に引っ張られる。

 しずの脳内には3年前の出来事が甦ってきた。結乃に連れられこの泉に来た時彼女に縁談話が来ていた事を知った。泉の水面を覗いた時


(私だけの物じゃなくなるお姉様なんていらない)


背後から結乃をつき落とし走り去っていった。翌朝結乃が寄宿舎にいない事で騒ぎになり捜索が始まった。結乃は泉に浮いてるところを遺体で発見された。死因は事故として処理されたのだ。

「どう思い出してくれた?じゃあここでわたくしが言った事も覚えてるわよね?貴女はい

つまでもわたくしの大切な妹よ。」

結乃の腕が体に絡みつきしずは泉の底へと沈んでいく。


                  FIN

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